暗闇|絶望|ブクガ|断絶|希望

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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

第一章「重い扉の先、暗闇」

2018年1月3日。Zepp Tokyoの重い扉を開いた先に、その世界があった。

年明け、9ヶ月前に移住した札幌から束の間の帰省を楽しんでいた僕は、LinQが出る、という理由でこの日行われていた「NEW YEAR PREMIUM PARTY」に足を運んでいた。2013~2014年にかけてはいわゆる「ヲタ活」でさまざまな現場を訪れていた僕だったけれど、いろんなグループを見ているうちにLinQという九州のアイドルグループに答えを見出し、そっちにハマる一方で人の多く集まるフェスは自然と足が遠のくようになっていた。絞った、という言い方が正しいだろうか。見切ったとも言えるだろうか。もう他のグループは一通り見たけれど琴線に触れるものはないからいいや、と。

この日も、せっかく帰省した東京でLinQが見られるし(LinQが札幌に来ることはなかった)、ライブ見て物販に行ければそれでいい、という感覚だったので会場に着いたのはLinQの物販時間に合わせて14時過ぎだったし、それ以前にチケット代の高さから直前まで行くのをためらっていたほどだった(だから当日券だった)。出演グループも、LinQ以外のタイムテーブルもチェックしていなかった。

会場に着いて、チケットを買って、とりあえずドアを開けてみた。そんな薄い感覚だった。

重い扉を開けた先に広がっていたのは、世界、というより暗闇、になるだろうか。

聞こえてくる音楽は木琴を使ったり、どこかフルートのような、でももの悲しさのある旋律の音色。静かに聞き入っていると、突然ステージから数秒間、音も照明も消えた。暗闇と静寂。それまでのライブの明るさと喧噪と対比の構図。

暗闇が見せるその世界に、一気に引き込まれた。えっ、ちょっとこれすごい。なんてグループなんだろう?あわててタイテをチェックするとこう書かれていた。

Maison book girl

僕は帰宅してすぐにこのアイドルグループのことを調べてみた。サクライケンタさんと知って納得した。僕は2014年の大阪のアイドルフェスで、いずこねこを見たことがあって、その世界観にとても興味を持ったことを思い出した。過去の僕とつながった思いだった。

そしてアマゾンミュージックをチェックすると、いくつか曲が配信されていたのですぐにダウンロードし、冬休み中聞くようになった。冬休みが終わり札幌に戻ってからも、YouTubeなどでPVを見ているうちに、もっと曲を、しっかりと聞きたいと思ってアルバムを買う(ダウンロードではなく)など、気づけば全曲手に入れていた。そして、もっとその世界に引き込まれていった。アルバムは一曲目がendingで最後の曲がopening、という、あれ?もしかしてスマホに取り込むときに順番間違えた?と思わせるギミックも僕にとっては世界だった。できればライブを見たかったが、札幌にいる身としてはそれは簡単に実現できる話ではなかった。

そしてちょうどその頃僕は、二つの戦いを強いられていた。一つは、北海道で初めて迎える冬、という寒さ。そしてもう一つは、仕事でぶち当たった壁。縁もゆかりもない街にやってきて、しかも転職という環境の激変。仕事が行き詰まり、息詰まる日々の連続。さらに僕は父を亡くしたばかりだった。もう、本当にどうしようもない…もう、救いなんかいらない…

そんな僕を悲しみの淵に突き落としてくれるのにブクガの音楽は最高だった。どんどん、水の奥底に自分を沈めてくれる存在だった。

ただ。ブクガのビートはどこか、「打つ」というよりは「鳴らす」ように聞こえる。静寂を打ち砕くかのように寺の鐘を鳴らすようなものだろうか。そして、この世の中に音を響かせる。

その音は、自然と僕の心を前向きにさせていたのかもしれない。