スポーツには、チャントという応援手法がある。
一言でいえば、音楽より声が主体。Jリーグの試合風景がまさにそうで、基本的にはサッカーの文化だ。そこにはトランペットなど音を奏でる楽器はなく、あるのはリズムを取る太鼓だけで、まさに「声」援。野球でも千葉ロッテのようにその手法を取り入れたチームもある。
声援は力になる、とよく言われるが、あなたも例えば大きな声で褒められたり、逆に怒られたりすると、その分感情が増幅するだろう。歓声、怒声…。もちろん楽器だってその鳴らし方によっては感情を揺さぶられるかもしれないが、人の内面にこもる気持ちがストレートに現れる声、に勝るものはないと思う。
そして、その声は会場の空気も支配する。アーティストのライブだって、観客の声援が熱を帯びてアーティストもヒートアップしてそれが観客をさらに熱くする…。私はそういう、声がもたらす空間、というのが何より好きだ。中継で見た、チャントが飛び交う海外サッカーの光景に魅せられて現地に見に行ったことも何度もあるし、千葉ロッテの声援を聞きたくなってマリンスタジアムに行くこともある。声は、人を惹きつけると思う。
バレーボールで、最初にチャント文化に触れたのはFC東京だった。私はJリーグではFC東京が好き、というのもあって、Vリーグ男子も自然とFC東京びいきになったが、応援手法はサッカーと共通だったのですぐになじめた。「負けるわけはないさ」「サマーライオン」などかつてゴール裏で歌っていたチャントがVリーグという違う競技のリーグでも聞ける、というのはなんて楽しいんだろうと思った。恐らくだけれど「You’ll Never Walk Alone」を歌うバレーボールチームは全世界でもここだけだろう(私は何よりリヴァプールの大ファンだ)。
耳に染み付いたチャントは、自然と脳裏に刷り込まれ、無意識のうちにまた聞きたいと欲するようになる。そんな研究発表も存在するかもしれない。
これはそんな私にとっての、あるVリーグ女子チームのチャントにまつわる話だ。
2024年1月27日、北ガスアリーナ46───
この日はVリーグ女子V3・アルテミス北海道の試合だった。札幌に住んでいたことのある私にとっては、待望の、地元にできたチームの最初のホームゲームということで東京から足を運んだ。
その第一試合はヴィアティン三重対カノアラウレアーズ福岡。今シーズンからできたV3女子を見るのも初めてで、興味津々で場内を見ている中、ふと二階席の一人に目がとまった。昨シーズンのV2の試合では見かけなかったヴィアティン三重の応援団と思しき人が、一人でスタンバイしていたのだ。
三重から遠く離れた真冬の札幌。しかも翌日にはアルテミスとの対決も控えている、アウェイの地。そこに単身で乗り込んできたその姿が、何よりカッコよかった。その佇まいは、既に試合前からサポーターだった。サポーターという人種は基本的にそのチームの地元からやってくる。ということは、その地元の空気をまとっているのだ。しかもご覧の通り完全武装。おお、なんかカッコいいな、とつい写真を撮った。
だが試合中、さらにびっくりした。彼は一人で太鼓を叩き、一人で歌い、一人で大声でコールしたのだ。さすがに三重からわざわざ札幌、しかも真冬に来る人は限られていて、実質三重の応援は彼一人。だけれどもそれをカバーしようと必死でチャントを歌っていた。
しかもこう言っては何だが、彼は忙しかった。