試合後のクールダウンで座り込んだ関選手に、とっさに顔を隠してあげようとタオルをかけにいったのが中道瞳コーチだった。
中道さんはタオルを掛けた後も最初少し距離を置いて、いわば放置していた。
やがて関選手が落ち着いてきたと気づくや、しゃがんでどこか諭すようにゆっくり話し始めた。
シーズン最終戦ということでインタビューがあった菅野監督も終わったらすぐに関選手のところにやってきて、何かを話し始めた。
これらの光景を見ていて感じたのは、やさしいやなぐさめ、いたわりの言葉はかけていないだろうな、ということだった。よくやったね、とか絶対言ってないと思う。
私がこれを見ていて思ったのは、たぶん試合中、関選手は頭が大混乱に陥っていたと思う。大混乱に陥ったままなんとか試合を無事に終えてそれが一気に爆発した。そんな印象を受けた。私自身も仕事とかで経験があるのでよくわかる。
よくわかるし、大混乱に陥ってそれがやっと収束した、と思ってもそこで「よくやったね」とか言われるのではなくむしろ逆に「どうしてこうなったと思う?」とか「あそこをこうすればこうはならなかった」みたいな言葉をかけられた方がいいのだ、そこで終わらせないことが大事なのだともそれなりに長い社会人経験で学んだ。「よくやったね」みたいな言葉は選手がかければいいのであって、監督やコーチはあえてそこで厳しい言葉を発した方がいいのだ。
特に東レは菅野監督は間違っても選手にやさしい言葉なんかかけない人じゃないかなあ…と。コート上で笑顔なんか見たことがないし、これはファイナル8でのことなんだけれど、試合中に選手に軽く説教して「もういい、下がってろ」といってそのまま試合に出さなかった、というのを目の当たりにしている。監督としてはいいが、間違っても私の上司にはなって欲しくないタイプだ(私の理想の上司は日立の角田監督)。
ちなみに試合後のセレモニーには元気に参加していてホッとした。この辺の切り替えの速さは彼女に限らずVリーグではけっこう見られる光景という印象だ。
このシーンを見てから、私は中道さんに興味を持つようになった。
東レファン、いや、Vリーグファンの方なら中道さんだけで相当語れると思うのだがあいにく私は初めてVリーグを見たのが15/16からだし、東レファンと言えるようになったのは今シーズンからなので、全く存じ上げない。木村沙織さんのラストシーズンで東レのセッターに負傷が相次いで不足して急遽選手登録された、ということくらいしか知らない。
ただ、その後ロンドン五輪のメンバーだったことを知ったり、東レの一時代を築いてきた選手だったんだなあ、ということは知った。
そういえばその頃からだろうか。帯同スタッフに中道さんがいるかどうかは必ずチェックするようになっていた。セット間のタイムアイトを利用して、近くにいる白井選手に指示したりという光景も見られていた。
ファイナル8では東レは5勝1敗と白星を重ね、3/23のトヨタ車体戦を迎えていた。4位通過でポイント0から始まったファイナル8は、気づけばこの試合に勝てばファイナル3進出が決まる状況になっていた。そして東レはこの試合を3-1でものにし、ファイナル3進出を決めた。試合後の選手たちはこれまでに見たことのないくらいの歓喜に包まれていたのだが…
その中で、関選手が中道さんのところにやってきて、何か言葉を交わしていた。
これは勝手な推測なんだけれど、関選手が中道さんに御礼を言いに来たように見えた。おかげさまでファイナル8進出できました。ありがとうございました。そんなところだろうか。
言葉にすれば単にそれだけなんだけれど、あの愛媛での光景を見ていた身としてはそれだけではないように感じた。もしかしたらあの愛媛の出来事で、関選手はよりいっそう中道さんを慕うようになったのではないだろうか。