18/19東レアローズ粘風記~ファイナルステージ編~

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

2019/3/10 対埼玉上尾メディックス ○3-0 花巻市総合体育館アネックス 勝利の円陣:クラン・ヤナ選手

久光には敗れたものの、ここからは再び一敗もできない戦いが始まる。改めてスイッチを入れ直した。そんな試合だった。昨日スタメンだった石川真佑選手はベンチには入るものの出番なし。でも、なんとなくだが、「内定選手に負けてたまるか」という火を特にアウトサイドヒッターの選手たちに植え付けた気がする。女の意地とかそんな言葉じゃない。

ファインダー越しに見る黒後選手もこの日は無双モードで、安心して見ていられた。にしてもなぜか今季は埼玉上尾との相性が抜群にいい。この日も3-0であっさりと下してしまった。そしてこの日何より印象に残ったのは、菅野監督だった。

僕は菅野監督は好きじゃなかった。16/17シーズンの時は菅野監督だったんだけれど、「とにかく怒鳴り散らす口うるさいアパートの大家」という印象でしかなかった。木村沙織さんが現役続行を決めた理由の一つが菅野さんの復帰だったけれど、それがわからなかった。

ただ。この日の菅野監督はそんな印象を変えた。今日の試合は大きいと思っていたのか、とにかく大声を出して叱咤激励していた。「こっからやぞ!」とか試合中に何度も叫んでいたし、「ストレートはないぞ」とか、相手の戦略を把握しての具体的な指示を出していた。当たり前だけれど監督は試合中でも一番選手の近くまで行けるし、大声を出せればその分指示も徹底できる。でも、おそらくだけれど一番声量が大きいのは菅野監督じゃないかなあ(角田監督は二番目に来るかな)。

また、菅野監督はそれなりに実績のある人だし、相手の戦略を読んでの指示、というのもかなり確実なものというか、「この人の指示なら間違いない」と選手も思えるだろう。実際、試合中にも菅野監督のところにデータが集まっているわけだし。とはいえ、真鍋監督のようにiPadを持っているわけではなく、試合中に紙でデータをもらっていたりと結構アナログなのだが。

監督も一緒になって戦っているのだなあ…ベンチ裏シートはそんなことも発見できる場、だった。

この日の勝利の円陣はヤナ選手だった。東レに入った最初のシーズンを、ヤナ選手はけっこう楽しんでいる印象があるし、チームメイトとの輪も深まっている印象を受けていた。今まではみんな遠慮していたかもしれないけれど、初めて円陣の真ん中に放り込まれた彼女を見て、僕は彼女が本当の意味で東レアローズの一員になれた、そんな気がした。

試合後。フルセットを想定して取っていた帰りの新幹線を早め、タクシーで体育館を後にした。ちょうど黒後選手が登場したようで、会場の外から黄色い大歓声が聞こえてきた。運転手は「すごいね(笑)」とびっくりしていた。会場のすぐ側にあの花巻東高校があるように、菊地雄星と大谷翔平の二人のメジャーリーガーを輩出している野球の町・花巻に響き渡った、黄色い大歓声。

それでふと思った。

Vリーグ。それは人の胸を焦がすもの。

2019/3/16 対日立リヴァーレ ○3-0 深谷ビッグタートル 勝利の円陣:井上選手

埼玉出身の僕でも、深谷はてっきり上尾と熊谷の間だと思っていた。かつてある選手がここで開催されたオールスターでの最後の挨拶で「埼玉という遠いところまで」と言い放って、会場が爆笑したなんて出来事があったけれど(近江選手だ)、その気持ちがよくわかった。

この日の対戦相手の日立リヴァーレは、僕にVリーグの魅力を教えてくれたチームだけに思い入れがあるというか、複雑だった。とはいえ、東西の同じ4位同士とはいえポイント数は全然違うので、試合は有利だろうなと思っていた。そしてそれは予想通りの展開になり、相手に20以上のポイントを与えたセットもなく、完勝だった。もう少しこのチームとの対戦を楽しみたかった。

試合後、円陣に放り込まれたのは井上選手だった。古巣相手の対戦に花を持たせたのかもしれない。

余韻に浸りながら駅で電車を待っていると、声をかけられた。いつも、写真を大切に使ってくれている人だった。開幕時は知り合いもいなかったのに、今ではこうして至るところで知り合いに会う機会が増えている。そして、仲間が増えている。