「カノアラウレアーズ福岡」事業に見る、Vリーグを救う新機軸

カノアラウレアーズ福岡
all text and photographed by
Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

③「ミクロ」地域密着

地域密着。バレーボールに限らずスポーツ界全般で唱えられている言葉です。ですが、その地域にも野球、サッカー、バスケなど強豪はたいていあります。その地域を独占できるわけでは決してありません。

例えば福岡市になれば野球はホークス、サッカーはアビスパ、バスケはライジングゼファー、卓球には九州アスティーダもあります。しかもVリーグ男子には福岡ウイニングスピリッツもできました。そこにカノアラウレアーズ福岡が参入しても埋もれてしまうのは必定です。マクロな福岡市という人口の多さは市場として魅力ですが、埋もれてしまってはあまり意味がないですよね。

ではどうするか。簡単で、競合の少ないミクロなところに行けばいいんです。例えば姫路は人口は多い街ですが、スポーツチームはヴィクトリーナ姫路と、サッカー女子のASハリマアルビオン、そして最近できたWリーグ(女子バスケ)の姫路イーグレッツ。これですとヴィクトリーナ姫路は地域No.1を取れます(眞鍋さんが姫路出身というのも大きいですが)。

競合が少ないミクロなところに行けば、その地域からすれば基本的に歓迎されます(基本的にと書いたのは、首長の方針だったり排他的な風土だったり、一概にそうとも言い切れないのではと思うからです)。そしてその地域が地域活性化、しかもそれが体育館があったりスポーツを通してのものを目指していればなおさらです。

ちなみにこれはこの記事を作る中で見つけたのですが、福智町について『スポーツ公園を拠点とした福智町「賑わいと活力増進」施設整備事業』と題した地域再生計画という資料がありました。これ、内閣府地方創生推進事務局のサイト内にあり、誰がまとめた資料なのかはわからないのですが(福智町なのか内閣府なのか)、いずれにしてもカノアラウレアーズ福岡と福智町の関係性がよく見えます

上記資料のポイントは

  • 人口減少、少子高齢化に伴い町のイベントの活気が失われている
  • 交流人口(※)増加に向けた新たな町の魅力の創出が必要(※…町を訪れる人のこと)
  • スポーツについては町外からの来訪者による地域の活性化の意識が欠如していた
  • 「ボルクバレット北九州」と「カノアラウレアーズ福岡」と協定を締結し、影響力の高いスポーツの力で町に人を呼び込み、地域経済の活性化や定住促進を推進する
  • そのために2.4億円かかる

ちなみにこれはあくまでスポーツに限ったもので、町の活性化という点では平成筑豊鉄道や「福智スイーツ大茶会」を活用した施策もあります。また、資料にはカノアラウレアーズ福岡の文字はありますが、計画は「金田ふれあいスポーツ公園」を総合スポーツ施設へ再整備、というもので、この中には体育館の建設などはなく、まずはボルクバレット北九州のためにフットサルコートを整備しようという内容です。

ではありますが、福智町という小さな町でもこうしてスポーツ施設の整備事業が計画化されているわけです。総事業費は2.4億円ですからなかなか大きいです。これ、福智町が負担するわけではないです。おそらくですが、「地方創生推進交付金」という国の制度を使っていると思います(思いますとしているのは、資料しか見当たらず、これが実際に認可されたものかどうかわからないからです)。

つまり何が言いたいかと言うと、小さな町だからといってお金がないわけではないんです。正確に言えば国からお金を引っ張って来られるんです。私自身地方に移住したことがあるからわかるのですが、地方にとって国からお金を引っ張ってくることってとても大事なんです。といってもくださいと言えばもらえるものではなく、ちゃんとした理由なり施策が必要なわけですし(それが先ほどの資料です)、それが作れる人も必要なわけです。

もしこれが他にもスポーツチームがあったら、同じ1億でも全チームで分配になるかもしれませんが、競合が少なければ取り分は増えますよね。なので、「ミクロ」地域と書きましたが、小さい町であればあるほど地域との連携は密になるし、使えるお金も増えるということです。

いずれは福智町にカノアラウレアーズ福岡の試合ができるアリーナを新設、なんて事業も認可されるかもしれません。そのために必要なのは、「ホームゲームでこれだけ人が来て、経済効果があった。であれば福智町に自前の体育館を整備すればより経済効果が…」。

この実績と根拠を、今シーズンからこのチームは作っていくんです。

ちなみにサラッと書きましたが、こういったスポーツ施設の建設など整備は、国からの支援をいかに得られるか、がカギです。最近各地にできているアリーナも、「スタジアム・アリーナ改革」という支援事業を活用しています。スポーツビジネスに興味のある方は、国の方針や施策を細かくチェックすることをオススメします。

そして最後になりますが…

④最初は小さな「熱」

これにつきます。カノアラウレアーズ福岡でいえば森⽥亜貴⽃監督です。森田監督の熱が、いろんな人を動かしていって今があるのです。そのあたりのことを第三者の私から言うのは野暮なので、公式サイトのヒストリーをぜひご覧いただきたいのですが、

チームを残すために貯金を切り崩してまで負債を返済し、そして選手たちの雇用確保に走り回り、スポンサー獲得のために慣れない営業活動をして、さらには経営のプロを探して森裕介さんにアプローチして…

全ては熱なのだと思います。森田監督だって福岡出身ではなく、奥さんの実家という縁でやってきた途端チーム経営が悪化していって、つまり森田監督の責任はないのにいわば泥をかぶったわけです。

ではなぜチームを残そうとしたのか…それは公式サイトのヒストリーに載ってます。

そして。カノアラウレアーズ福岡だけでなく、その前の福岡春日シーキャッツが生まれたのも熱です。そこにも思い至っていただければと思います。

長くなりましたが、私が「今後のVリーグ界の、一つの指標となるチーム」といった理由が少しでもおわかりいただけたらうれしいです。

───

最後になりますが、晴れてVリーグ参入を果たしたカノアラウレアーズ福岡は、11月25日の鈴鹿大会で初のリーグ戦、そして1月6・7日には田川市総合体育館にて初のホームゲームを開催します。また、10月21日(V1開幕日です)には出陣式として花火大会も予定しているそうです。冒頭の熊本比奈選手…もとい、熊本比奈社長のうなぎも、そこでお披露目の予定とか。

出陣式の開催もそうですが、そこで選手兼社長の店が出店というのも面白いですね。チームだけでなく事業も出陣。前代未聞のバレーボールチーム…じゃなかった、バレーボール事業が、福智町、そしてサポーターの皆さんと、いよいよ今シーズン、キックオフします。