「カノアラウレアーズ福岡」事業に見る、Vリーグを救う新機軸

カノアラウレアーズ福岡
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選手と監督のショートコントシリーズスタート(2022/6)

いかにチームに注目を集めるか。カノアラウレアーズ福岡が注力する戦略の象徴がこの「コンテンツ戦略」だと思います。単にSNSに写真や文字を投稿するのではなく、コント形式というエンターテインメント要素を盛り込むことで注目を集めるわけです。この点について、森裕介球団本部長がこのように説明しています。

僕たちの戦略はスポンサー様への貢献です。

せっかくスポンサーになっていただいても
認知度がなければ意味がありません。

バレーボールが好きな人をターゲット層にす
るだけではなく、どれだけバレーボールに興
味がない人達に興味を持ってもらえるか?

ここが目的なのです。

上記インスタより

その一環として始めたのが、森田亜貴斗監督と熊本比奈選手によるショートコントシリーズ。「監督に○○してみた」という他愛のないショートコントをただひたすらTikTokでアップしていくというものです(インスタにもストーリーで投稿)。

元々のTikTok開設は2021年9月と、比較的早い熊本選手ですが(個人でアカウント持っているVリーガーってあまり見かけないような)、このショートコントまでのいいね数はだいたい100~200。それが一気に1000~2000と10倍に。中には7.5万なんてものもあります。

やっぱりチームが注目されるためには、バズるためにはインフルエンサーが必要です。でも、今のチームにはいない。だったらインフルエンサーを作りだしちゃえ。そのためにはエンターテインメント要素を盛り込んで注目を集めよう。

これが戦略です。そしてこの戦略があったから、よりバズらせるためにインフルエンサーを獲得しよう、という戦略に基づいて、前述の賀谷明日光選手獲得につながった、ということではないかと考えます。

森裕介氏、球団本部長に就任(2022/6)

カノアラウレアーズ福岡のキーマンはまさにこの人です。何度も苦境に陥ったチームが、こうしてVリーグ参入を果たせたのはこの人がいてこそです。

チーム存続に走り回っていた森田監督が、「福岡に、どん底状態の運営をV字回復させるスペシャリストがいる」ということで知人から紹介されたのがこの森裕介さんだったようです(チーム公式のヒストリー「【 第7話 】多額の借金。森田、貯金を切り崩す日々」より)。森さんの来歴などはどこにも載っていないので、ご本人のSNSなどから読み解くしかないのですが、様々な事業を手掛けていらっしゃる実業家、という表現が正しいと思います。とはいえ決して順風満帆ではなく、一度騙されて多額の借金を背負った時期もあるようで、苦労をされています。

そのご経験が、カノアラウレアーズ福岡の境遇と重なって携わるきっかけになったのかもしれませんね。そしてこれはそれなりに福岡に詳しい私の経験ですが、福岡は新進気鋭のベンチャーだったり、起業文化あふれる地だと思っています。特に福岡市は市自体が起業支援に力を入れています。

背景を話すと長くなるので手短にしますが、要は福岡市は大都市ながら、大工場には欠かせない一級河川がないなど、工業など二次産業が盛んではない土地でした。なのでサービス業など三次産業に力を入れていた。それが、結果的に時代の流れ───IT産業の発展───で脚光を浴びるようになったし、そういう企業が増えていった、というより起業して一から興していった、ということです。

九州って自然食品とか通販業が盛んなんですよね。となるとECサイトが必要、となるといかに買ってもらうかというサイトデザインやUIがどんどん磨かれていく…と、結果的にITの先進地域になっているわけで、福岡は日本でも屈指だと思います。それもあって福岡市は政令指定都市でトップの人口増加率なんですよね。

私自身福岡での起業家が知り合いに何人もいますし、うち一人は森さんのように事業を立て直してさらに拡大させている人も間近で見てきました。

なのでこのカノアラウレアーズ福岡の「事業」ぶりは、いかにも福岡だなあ…と思って見ています。最後にまとめますが、この森さんみたいな方が増えることが今後のVリーグ発展のカギだと思います。