Arrows you know?~東レアローズ22/23ファイナル~

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

2023年4月22日。この日の代々木の対戦相手・NECは、代々木からさほど離れていない場所で行われた皇后杯決勝で、序盤からサーブで攻め立てられ、普段通りのバレーが全くできず、食い下がったものの敗れた相手。当然あの悪夢は私の中にまだ残っていた。

二週間前はどのセットも20点以上取らせず快勝した。だが、それは全くアテにならないと思っていた。どこか途中から試合を諦めて、ファイナルでの再戦をにらんでいわば死んだふりをしているようにも思えたからだ(そうでなければあんな点差にならない)。案の定、NECはその試合で連勝こそ止まったもののその後久光、埼玉上尾を破り勢いを取り戻していた。

有利では全くない。だが、皇后杯で一度やられていることがむしろプラスに働くのでは、とも思っていた。実際二週間前の高崎も出だしは皇后杯の再現みたいなものだったが、「ああ、あのときもそうだったよね」と選手たちはどこか落ち着いているように見えたからだ。

と、まあいろいろ考えたところでしょうがない。やるのは選手であり、ファンがあれこれ考えたところでしかたないのだ。いつも通り、平常運転で。

ところが。
いざ試合が始まると、また序盤からNECに圧倒された。相手のサーブに攻撃の形がなかなか作れない。まずAパスが返らないと小川選手のブロードが機能せず、それだけで東レの持ち味を消すことを意味していた。となればたいていレフトにボールが集める。苦しい状態からのトスであれはアタックは自然と拾われやすくなり、結果、攻撃は手詰まりになる。対東レ必勝パターンを、この日もNECは見せていた。第一セットを23-25で落とすと第二セットは一方的な展開になり14-25と、完敗ペースだった。ああ、またこのパターンか…そう思った人は多かったと思う。

だが、私はこの試合、ファイナルにしては珍しく第二セットの後にインターバルがあることが有利に働くと思っていた。東レはアナリストの分析力とそれを選手たちに落とし込めるスタッフの伝達力、そしてそれを忠実に実行できる選手たちの実力が備わっているチームだからだ。もうすっかり勝った気分になっているNECファンの会話を聞きながら、そこに望みをつないでいた。

そして試合はその通りの展開になる。皇后杯のように選手を替えたわけでもないけれど、選手たちは奮闘し、チームは息を吹き返していった。第三・第四セットを25-20、25-22と奪い返し、試合はファイナルにふさわしく、フルセットにもつれこんだ。ファイナルはこうでないと!この日会場に来ていた両チーム以外のファンの人も、きっと手に汗握る試合になっていたはずだ。

ただ流れを変えた要因として思ったのは、黒後選手が起爆剤となっているなと。第一、第二セット共に途中出場ではあったが、越谷監督はたびたび彼女に声をかけていて、大舞台を経験している彼女に賭けている印象を受けた。スタートから出場した第三セット以降チームが調子を取り戻していったことは彼女の存在が大きかったはずだ。

それ以前に、何よりこの場にこうして彼女が立っていること、が大きかった。

迎えた第五セットは一点取ったら取り返す、という展開がひたすら続き、両チームとも二点差以上開くことがなかった。そんな中、11-11となったところで東レがチャレンジを要求した。チャレンジのBGMが流れる中、NECはファンが自発的にハリセンを「GO GO ROCKETS」のリズムで叩き出した。NECの応援の名物ともいえるものだったが、ふと見ると、東レの控えエリアでファンに向けてハリセンを叩くことを呼びかけていた選手がいた。樫村選手だった。

思えば。控えエリアの選手がこうしてアロともに呼びかけている光景は初めて見た。もちろんコロナ禍で声出しNGのときは応援の先導もしづらい部分はあったのだが、NECのハリセンによる後押しをただ黙って見ているだけではなくウチらも対抗しよう、そう呼びかける彼女の姿は思いっきり心を打たれた。彼女の「東レ」のリズムに呼応してやがてベンチ側のアロともがハリセンを叩き出し、それを見て対岸の東レ側の客席もハリセンを叩き出した。

アロじょとアロともが、一つになった。

その後スコアは変わらず膠着状態が続く。こういうとき、ブロックが飛び出すと一気に流れが変わるんだけど…と思ったまさにその時、大﨑選手にブロックが飛び出し、14-12と初めて二点差のリードをつけると共にチャンピオンシップポイントを迎えた。そう、私が優勝のキーマンと思っていた大﨑選手である。皇后杯決勝では第一セットで下げられた彼女が、大仕事をやってのけたのだ。

14-12。チャンピオンシップポイントである。私が見始めた15/16シーズンから待ちに待った瞬間だった。だが、待ちに待った分、どこか現実味もなかった。待ち望んでいた瞬間を迎えると、人って興奮するというか、いろんなことを忘れちゃうんだなとは思った。優勝した瞬間に撮ろうと思っていたカメラの構図のことも全く忘れていたからだ。

いよいよ、この瞬間が来る…