あの日見た彼女の背中にかけられなかった言葉

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

2019年4月13日。武蔵野の森スポーツプラザで行われた久光製薬スプリングス対東レアローズのファイナル。先週名古屋で行われた第一戦をストレートで落としていた東レがこの日勝つには、個人的にはフルセットで勝って、ゴールデンセットに持ち込むしかないと思っていた。東レはこれまでそういう崖っぷちの戦いを繰り返して勝ち上がってきたし、二試合目の勝利からその勢いでゴールデンセットで勝利して勝ち上がり、は、2週間前の京都でやっていた。

王者久光はそういういわばいっぱいいっぱいの戦いはしていない。ゴールデンセットも未知の領域だ。持久戦に持ち込めば勝機はある。そう思っていた。

結果から言えば、ゴールデンセットに持ち込むことで精一杯だった東レと、ゴールデンセットにもつれ込むことも想定内だった久光の貫禄。この差が出たと個人的には思った。ファイナルのことはここにたくさん書いてあるので読んでいただきたいのだが

久光のスタートコートになってしまった私の座席でも、フルセットからゴールデンセットになれば私のサイドで試合が終わる。優勝の瞬間が見られるという私のシナリオも見事に崩れた。ゴールデンセットでサイドが入れ替わったときは既に東レは劣勢で、後はただ久光の優勝へのカウントダウンを見ているしかなかった。菅野監督は打つ手がないとばかり沈黙し、私ももはや「こっからやぞ!」などとも言えなくなった。

試合が終わり、選手たちがベンチ前に並んだ。つまり私の目の前に並んだ。ふと見ると、目の前にいた関菜々巳選手が、背中を見る限り(明らかに)泣いていた。ヤナ選手が「あなたは頑張った」と言わんばかりに声をかけていた。

これは何か声をかけてあげなければ…

そう思って出た言葉は

「セナちゃんお疲れ-」

だった。

「お疲れー」

なんて軽い言葉なんだか!

敗退、そして泣いているという現実を目の当たりにして、とっさにかけてあげられる言葉がそれくらいしかなかった、というのもあったと思う。でもせめて「今日ここ(決勝の舞台)にいられるのはあなたのおかげやで。ありがとう」くらいは言えなかったのだろうか。せっかく彼女の真後ろにいる身として、東レファンを代表して…というのはおこがましいけれど、でもそれくらいの気持ちでもっとちゃんとした言葉をかけられなかったのだろうか。

この思いそして悔いは、むしろ後々大きくなっていった。あのとき、あんな軽い言葉しかかけられなかった自分をどこかで恥じ続け、さげすんでいたのだと思う。

僕はあの日の彼女の背中に、あんな言葉しかかけられなかった。