白熱する試合を楽しんでいた時、ふとこの光景に気付いた。
ベンチにユニフォームが掲げられていたのだ。数字は17。そう、先週ケガをした唐川選手のユニフォームである。テクニカルタイムアウトのたびに円陣の中に持って行って、試合が始まるとベンチに丁寧にかけていた。ここにいない選手の分も。そんな思いも、この日のJAぎふの選手たちの中にはあっただろう。それがチームをより結束させていたはずだ。
でも。ここにいないのは唐川選手だけではない。栁沼選手もそうだ。でもベンチを見ても19番のユニフォームは見当たらない。もしかしたら17番の下に重ねているのかな…でも普通並べて掲げるよな…とそのときは思っていた。
第三セットは巻き返した群馬銀行に20-25で奪われたものの、第四セットは25-22で奪い、JAぎふは首位の群馬銀行相手に白星を挙げた。今シーズンここまで1敗しかしていないチーム相手に、金星といってもいいだろう。ホームゲームということでV2には珍しい1200人もの観客が集まる会場が静まり返る中で、JAぎふの選手たちの歓喜がはじけた。私はいつものようにその光景にカメラを向けた。
いい光景だな…というのと、この光景を間近で見られる幸運をかみしめながら、選手たちが抱き合う光景を撮っていて、選手たちがベンチ外にいた人と次々と抱き合う光景が目に入った…。すると、そこには松葉杖が見えた。そう、彼女の姿があった。
ああ!だからベンチに19番のユニフォームが掲げられてなかったのか!とそこでやっと気づいた。だって、彼女はそこにいるのだから。チームメイトと一緒にいるのだから。
これは完全な推測だが、彼女は自ら望んで帯同したのではないだろうか。元々(確か)仕事で情報発信に携わっているようでカメラも扱っているはずで、撮影もできるスタッフとして帯同したのではないだろうか。
松葉杖姿ではあったが、今回の前橋大会は岐阜からチームバスで移動していたようなので(バスが止まっていた。実は高速を使えば5時間もあれば岐阜に着ける)、駅などでの階段の上り下りといった負担も最小限に食い止められる。じゃあ、私も行くよ。そんな感じだったのではないだろうか。
ただ、彼女は何もスタッフになれるから、プレー以外でも何かの役に立てるからといって帯同したわけでもないだろう。何よりこのチームを、仲間を見届けたい。そう思ったのではないだろうか。
だから選手たちも、彼女が見ていることが何よりの心の支えになり、かつ「彼女のために勝利を!」と一丸になれたのではないだろうか。どこにいようが、彼女はチームの一員なのだ。
JAぎふは現時点で7勝9敗の6位で、V1昇格の最低条件となるV2のファイナル3進出はほぼ絶望的だ。だが、そんなチームにも小さなドラマはある。Vリーグは知名度の高い選手の多く集まるV1を中心に盛り上がる。ドラマもある。だが、V2にだってドラマはある。この前橋での光景は、人込みであふれかえる都会の道端に、ポツンと優しく咲いている花のように見えた。
気づけば。二週間前は車椅子姿だった彼女は、もう歩き始めている。
松葉杖と、そして何より心強いチームメイトという支えと共に。