ある思い。それが見えたのは試合後のことだった。整列を終えベンチに戻ってくると、選手たちは真っ先に、車椅子に乗る彼女のところに向かった。彼女のためにこの試合は絶対勝つ、という思いが残された選手たちにはあったのだろう。ただ、選手たちが泣きながら彼女のそばに駆け寄ったのは、感謝と後悔もあったように見えた。チームを立て直してくれてありがとう。無理をさせてしまってごめんなさい。
思えば。負傷シーンはこれまでも見てきたが、負傷後もコートのそばで試合を見続け、かつ車椅子姿でいる選手を見たのは初めてだった(この日は日曜だったので、負傷に対応できる病院が空いてなかったのかもしれない)。しかも、ホームゲームということで行われた試合後のイベントにも彼女は車椅子で参加。試合後の挨拶でも「体はこうなってしまったけれど、心は元気です」と気丈に振る舞っていた。そんな彼女の手を、チームメイトたちがずっと離さなかったのが印象的だった。一人じゃないよ、一緒に歩くからね。
負傷しても選手として試合を最後まで見届け、そしてホームゲームということで駆け付けてくれたファンにも明るく、気丈に振舞う…。もし自分が同じように、先行きの見えない大きなケガをしても、その直後に彼女のように振る舞えるだろうか。
2023年2月4日、前橋市・ヤマト市民体育館前橋。
あの日から二週間がたったが、JAぎふは前週の試合をいずれも3-0で快勝して、0勝5敗だった序盤から6勝9敗とだいぶ持ち直していたが、栁沼選手に続き正セッターの唐川選手を負傷で欠く事態となっていた。帯同メンバーも12名と少なく、さらに宮井選手はマネージャー兼務のためセット間の対人は3人のみ、うち一人は初帯同の内定選手である水野梨加選手、というのがチームの現状を示していた。しかもこの日の相手は12勝1敗で首位の群馬銀行。さらに「#私は群銀推し」というハッシュタグなど、今シーズン最後のホームゲーム二連戦と、文字通りアウェイだった。
だが。JAぎふは第一、第二セットを立て続けに25-18と連取する展開を見せる。群馬銀行は元々メンバーをあまり固定していないのだが、この日はその悪い面というか連携面がイマイチだった、というのと力を入れて用意したホームゲームだ、という硬さもあったように見えたが、それ以上にJAぎふがよかった。何がよかったのか。
もちろん、ボールを粘り強く拾ってつないで、またブロックで相手攻撃を封じて、そして柱である髙石選手を中心とした攻撃陣が得点を重ねる、というJAぎふのいいところがたくさん出た、というのはあった。だが、何より伝わってきたのは、選手たちの覚悟、だった。これだけ選手が抜けて、代わりの選手もいない。であれば、自分のやるべきことをやるのみ。そう腹を括った印象を受けた。これ以上失うものはないのだから、思い切ってやるしかない。自分がやらなきゃ代わる選手もいない。じゃあ、私がやらなきゃ。
その思いきりぶりが、群馬銀行を慌てさせた印象を受けた。選手交代もシンプルで、リリーフサーバーとしてたまに中尾選手が皆川選手の代わりに入り、そして山根選手が後衛に入るタイミングで西條選手が入って守備を固める。もっともこれくらいしか手が打てないのだが、逆にそれが選手たちの割り切りを生んでいた気がした。
ただ、当然選手たちには二週連続で選手が試合中に負傷しているトラウマはあったはずだ。現に、髙石選手がアタックを打った後に、座り込んだときは選手たちが「えっ、もしかしてまた負傷…?」とドキッとする様子が見てとれた。単に床を吹くためにしゃがんだだけ、と気づいたときの選手たちのホッとする表情が印象的だった。