でも、そこから久光はじわじわとあの人たちを追い詰めていった。生命線ともいえる小川選手のブロードも封じられ、手詰まりになっていった。長所が封じられ、打開ができないとそこに焦りが加わってさらに自滅する…。負けるときはどのチームもそんなものかもしれないが、私がこれまでよく見てきた光景が繰り広げられていた。
何より効果率リーグ2位と、武器の一つであるサーブがこの日は久光の13.4に比べて7.5とダメだった。サーブというのは個人プレーであり、そこに選手たちの動揺が何より出ていたと思う。ちなみに昨シーズンのファイナルも、JTの6.4に対して3.4、今シーズンの皇后杯決勝も久光の9.8に対し5.8だ。
あの人たちはリーグ戦には強い。それは、その試合が1/33だからだ。
だが、ファイナル3のような1/1の試合の試合には脆い。逆に久光は1/1は強い。
それは「ここをこうしたら勝てる」というものがしっかりとチームにしみこんでいるからだと思う。チームに根が張っているのだと思う。ウチにはそれがない。
コート上にいる同じ6人でも、久光は1+1+1+1+1+1になっていた。
ウチは1x1x1x1x1x1だった。その違いだ。1を何回かけても1のままだ。
久光は1が束になっていたが、あの人たちは束にならなかった。
チームとしての強度が、なかった。
上述のバレーボールマガジンでの越谷監督のこの言葉に尽きる。
コートの中にリーダーがいなく締める人がいません。
上述の4/1のバレーボールマガジンの記事より
いや、本当はいるのだ。昨シーズンもいたのだが、今シーズンはずっといなかった。
1-3で落として迎えたゴールデンセット。こういうときは得ていて悪い流れを引きずるのだが、こういうときにあの人たちはガラッと変わるのも不思議というか、面白いところで、16-11と5点リードして二回目のTOを迎えたときは、これは今度こそ行ける!と思った。
でも、あの人たちは残念なことにそこは裏切らなかった。今シーズンの戦いぶりがゴールデンセットの一セットに集約される形になった。弱点をカバーするために勢いで突っ走っても、最後は絶対ボロが出る。そこを久光にはっきり突かれた思いだった。最後のシーンが、焦りによるウチのミスでの失点、というのが何よりの象徴だった。
ただ、私にとって救いだったのは、最後にリリーフサーバーで出てきた坂本、野呂の両選手だった。もう一点もやれないという状況で、ミスしたらその時点で失点というプレッシャーの中サーブをよく決めたと思うし、二人とも効果が記録されている。こういう途中投入の選手が仕事をすると、チームがまとまったりするのだ。彼女たちが放った輝きは、救いだった。
結局ゴールデンセットも23-25で落とし、敗退したファイナル3を一言で言えば「気持ちで負けた」になるのだろうが、それなりに見てきた私なりに細かく分解してみた。プレーとか戦術とかは私は専門家ではないので書けない。ただ、現地で、何よりベンチ裏という間近で見て感じたことを書いてみた。
私は別に責めているわけではない。何回も言うけどこの状態でレギュラーラウンドを2位で通過したのはすごいなと思ったし、よく頑張った。でも、あの人たちが「頂越」というスローガンを掲げていたことを考えると、「そこを乗り越えないといつまでたっても頂点には立てない」ということが言いたいだけだ。
そして何よりよく頑張った、と言ったところであの人たちは絶対喜ばない。
ベンチ裏シートに座っていた私は、敗戦の瞬間を東レ側のベンチで迎えた。
三位表彰のセレモニーが終わり、あの人たちがベンチに戻ってきた。
それを見ていてとても「よくやった」「お疲れさまでした」と手は叩けなかった。叩かなかったのではなく叩けなかったのは、むしろ失礼に当たる気がしてはばかられたからだ。
でも。結果は3位で昨シーズンより一つ順位を落としたけれど、でも、あの人たちは自分たちのポテンシャルをさらに広げてくれた。乗り越える壁はまだ高かったが、来シーズン乗り越えればいいのだ。そして何よりその乗り越えるべき壁がどんなものか、というのもだいぶ見えてきたのではと思う。
だから。目の前で悔しさを押し殺している様子を見て、あの人たちとまた一緒に壁を乗り越えたいと思った。
…ええい、冗談じゃない。これ以上ウチの選手たちを「あの人たち」なんて呼べるか!
来シーズンこそ、彼女たちとまた一緒に壁を乗り越えたい。そう思った。
風の谷の東レアローズ21/22シーズン
完