結果的に、最後の試合の最後のセットに、今シーズンの全てが集約されていた。
21/22シーズンの東レアローズは激震から始まった。開幕まで3週間近く前となったところでの、キャプテン・黒後選手の突然の離脱…「体調を崩し」「暫くの間、休養」という短い言葉をファンならずとも捉えきれずにいた。
開幕戦の後の越谷監督も「本当にわからない」と会見でコメントしたほどだし、このチームは情報統制は完璧な印象があるので、結局のところ推測するしかなかった。一般的な反応は「五輪での敗戦で沸き起こった中傷の影響」。これがほとんどだったと思う。当時の代表監督にエースと持ち上げられた結果、批判の矛先が向けられたのだ、と。
そのあたりのことは知る由もないが、五輪中にさんざん容姿なども含めて批判していた人が、いざ体調を崩したとなると「大丈夫?」などと手のひらを返して他人事でコメントしていたことの方が私は許せなかった。
とにかく東レはいきなりキャプテン、かつ主力選手不在という緊急事態で開幕した。ただでさえ薄い選手層である。メンバー14名は日立Astemoと並ぶリーグ最少。彼女の穴など埋めようがない。開幕戦は傍から見ていてもチームの動揺が透けて見えた。幸い姫路相手に連勝スタートとなったが、これは今シーズンは苦戦すると思っていた。
ところが。ぽっかりと空いた大きな穴は、誰かがカバーするのではなく全員の伸びしろが埋めていった。6が5になった分、1人1人が1.2人になっていった。そう。1.2×5は6である。例えば石川選手は、サーブレシーブ成功率を一時は昨季比で10%も向上させた(最終的には5.5%)。攻撃力など既に彼女の能力は引き出されていたと思ったが、まだまだ別の部分に伸びしろがあった、という感じだ。ますますパワーアップしていった。
昨シーズン出番を減らした中田選手は、元々準優勝だった18/19シーズンはライトのレギュラーだった。いわばレギュラーを奪還したわけだ。今シーズンはだいぶ右利きのライトの選手とは、というのがわかるようになってきたのだが、彼女のような器用なタイプはチームには欠かせない存在なのだと改めて思った(逆に言えば黒後選手は新たなライト像になれる存在だったわけだ)。野球で言えば六番打者に近いかもしれない。
正直年齢もあるしそろそろ下降線…と思っていたヤナは二年連続で得点王に輝き、アタック決定率を昨シーズンより伸ばした。井上選手は一度は大﨑選手に奪われたレギュラーを取り戻して、関選手との高速クイックなどで躍動した。他、名前を挙げればきりがないが、どの選手も目立った活躍を残したし、それは何も数字だけに限らなかった。
でも伸びた、という点ではこの三人を挙げたい。