黒後愛復活プロジェクト、第三段階。

東レアローズ
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

2023年1月7日。東レの新年最初の試合は、滋賀県大津市のウカルちゃんアリーナでのホームゲームだった。いつものように試合前練習が終わり、公式練習を前に選手たちが入場してきたそのとき、気づいた。

あ!マスク外している!

本当にそんな感じだった。今シーズンの開幕から見られなかった姿。それは、それまで一方的に抱いていたモヤモヤを一気に払拭するものだった。もちろんプレー中もマスクをすることはなかった。

思えば。マスクはいわば自分にかけた一種のブレーキだったのかもしれない。焦るな。まだ早い。ゆっくりと。ただ、リーグ終盤への完全復活に向けて、ここからギアを上げる。それが「マスクを外してのプレー」だったのではないだろうか。

だが、それにはもちろんチームメイトのサポートも必要だ。それがこの日は一つの形となった。第三セット、14-12でヤナ選手がサーブに回るローテーションで彼女が入った。その後二枚替えで野呂選手が入ったのだが、結果的にコートには大﨑、石川の両選手を加え下北沢成徳勢が4人もいた。「黒後に少しでも楽しくプレーしてもらおう」という越谷監督の意図もあるのでは、とその時は思った。

だが、この話はこれに終わらない。彼女はこれまで後衛での出場のみで、前衛に回るローテーションになれば下げられる可能性があった。次に失点したら前衛に回る、というタイミングでチラッと控えエリアを見ると案の定、ヤナは5番の番号札を手にスタンバイしていた。ああ、やっぱり下げられてしまう。でもこのまま得点を重ねてローテーションが動かなければ、試合の最後まで彼女はコートに立ち続けることになる…。

これは何も私だけの思いではなく、選手たちもだったかもしれない。間違いなくヤナが5番の番号札を持っていたのは見えていたのだから。そしてそのまま東レは得点を重ねて23-15になったとき、中島選手がなにやら黒後選手に話している光景が目に入った。その後、関選手のサービスエースが決まって、マッチポイントを迎えた、そのとき。

ラリーの中で中島選手が二段トスを上げると、そこに後衛からバックアタックで飛び込んできたのは彼女だった。そう、中島選手はあらかじめ彼女に伝えていたのだ。このままマッチポイントになって、二段トスで上げるタイミングになったら、バックアタック打ってね、と。

それがこのシーンだ。

関選手は後衛だったので、ディグに入る可能性が高い=中島選手が二段トスを上げる可能性が高い、ということもあっただろう。

結果的にこれが決勝点となるが、それ以上に彼女が今シーズン初めてアタックでの得点を記録したこと、そして何より前衛に回すことなく最後までコートに居続けられたこと、は、彼女自身にとっても大きかったし、それ以上にチームにとっても大きかった。

そう。彼女の復活は何も彼女一人で成し遂げるものではなく、チームとしてのプロジェクトとして成し遂げるものなんだ、ということ。いや、チームだけではない。ファンも一つになってのプロジェクトでもある。翌日、初めて二枚替えとして彼女が投入されると、初の前衛起用に会場が沸いた。つまり、ファンはすぐに気づいたということだ。なぜ気づいたか。ずっと彼女のことを見ていたし、前衛起用の日を待っていたから、だ。