黒後愛復活プロジェクト、第三段階。

東レアローズ
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

そもそも。なぜ彼女は体調不良に陥ったのか。その詳細については知る由もない。確かに東京五輪でエースに指名されてしまったため、予選敗退という原因の多くを背負わされたという要素もあった。しかも指名した人はどこかに行ってしまった。そして予選敗退という失望の矛先は、エースとしての彼女のプレーだけでなく容姿などへの心無い批判も見かけた。五輪が理由の全てだ、とは言わないが全く関係ない、とも言えないだろう。

容姿を批判したある人は、彼女の体調不良のニュースが流れると「心配だ」と他人事のように言っていたのだから、所詮はそれくらいの、文字通り心も何も無い人による批判ばかりだったということだ。

ただ一方で、そんな彼女を守れなかった、ということも東レアローズというチーム・選手にとって間違いなく負い目になったはずだ。というより、チームが嫌になってしまったのでは(それも体調不良に陥った遠因になった?)、という懸念も私にはあった。戻ってきてくれたことでそれも杞憂で済んだが、もし移籍なんてことになったら目も当てられないなと思っていた。

そんな2021/22シーズンは過去のものとなり、彼女は2022/23シーズンを前に戻ってきた。だから、シーズン開幕前に思った。今シーズン、2022/23の東レアローズは、彼女の復活プロジェクトでもあるのだ、と。春高を沸かせ、代表で躍動した彼女を、いかにまたスポットライトを浴びる舞台に戻すか。選手含めたチームとしての、一大プロジェクトが、開幕とともに始まるのだ。

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2022年10月29日。滋賀からも、東京からも、いや、どこからだって遠く離れている石川県・輪島市が東レアローズの2022/23シーズンのはじまりの地だった。

遠路はるばる会場の一本松総合運動公園体育館サン・アリーナに駆けつけ、入場して恐る恐るコートを見ると…。そこには、ちゃんと彼女の姿があった。背番号こそ9から5に代わり、横棒もなくなったけれど、そこにはちゃんとユニフォームを着て、試合前練習に参加している彼女の姿があった。ああ、この光景が一年ぶりに戻ってきたんだな。

ただ。彼女はこの輪島大会ではベンチ入りこそしたものの、出番はなかった。だがこれは越谷監督の配慮だったのだろう。節目となる試合はホームゲームで。そして翌週、11月5日のYMITアリーナでのJTマーヴェラス戦の第一セットの途中、彼女が12番の番号札を掲げてコートサイドに立つと、会場は一気に湧きたった。リーグ戦では2021年2月21日のファイナル以来の出場に、ホームゲームということで多く駆け付けていた東レファンを中心に、会場は万雷の拍手に包まれた。彼女はようやく復帰を果たしたのだ。