10年目のaiko論

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2010年4月24日、横浜アリーナ。全てはここから、だった。

その頃私は音楽媒体を担当していて、仕事柄、CDレーベルからライブのご招待をいただくことも多かった。いわゆる関係者枠というやつだ。もっとも私は音楽の仕事だけをしていたわけでもなかったし、音楽ライターとかそういう仕事では全然なかったので、実際に足を運ぶライブは限られていた。そんなときに、「aikoのライブに来ませんか」と招待を受けた。

aikoかあ。

その時はそんな感じだった。その頃の私にとってのaikoさんといえば、2000年に神戸に住んでいたときにFM802で頻繁に流れていた「桜の時」、だった。その頃aikoさんはまさにブレイクの時を迎えていた。売れるアーティストには必ずブレイクというタイミングがある。タイアップなどで注目を集めて、続く作品で一気にメジャーに…このときはまさにそんな感じだった。社会人三年目の私はいわゆる壁にぶつかっていて、この時見た桜もどこか華やかではなかった。でも、この曲だけは本当に心に刻まれた。

結局この日は他の予定もなかったので、ご招待を受けることにした。それくらいの気持ちだったのだ。

横浜アリーナで受付を済ますとまず驚いた。終演後にご挨拶があります、と言われたのだ。

関係者枠でアーティストのライブにお邪魔したとき、たいていは終演後にアーティストご本人からの挨拶がある。でも、それはまだ売れていなかったり、これからというアーティストが大半で、大物アーティストでは稀だったりする(もちろん、私の媒体がそれほど大きなものではなかったから、というのもあったが)。

「えっ、aikoさん(ほどのアーティスト)で終演後の挨拶あるの?」

まずそれにびっくりした。

そして渡された関係者パスは手書きのイラストだったのにもびっくりした。たいていは「PASS」と書かれた無機質なシールだからだ(後にライブDVDの特典としてファンも手に入れることができるようにしたのもaikoさんらしい)。そして横浜アリーナの二階席の関係者席に座り、開演が近づいてくると突然場内からこんなコールが沸き起こった。

「あ~いこ!あ~いこ!」

おおおおお。

開演前にファンがアーティスト名を手拍子と共にコールするライブなんて初めて見たぞ!

私はつい身を乗り出してその光景を眺めた。感動した。愛されてるなあ。もうそこから一気に引き込まれてしまった。ライブはまだ始まっていなかったけれど、aikoのライブはもうすでにここから始まっていた。

その後のライブでも、びっくりすることばかりだった。それまでに横浜アリーナのライブは仕事で何回も見ていたけれど、アリーナの大きさを感じさせないファンとの距離感に本当にびっくりした。「みんなの声を聞かせてください!」と言って花道を歩きながらファンと一対一でコミュニケーションを取っていた。

そう、一対一。

どうしてもアリーナのライブだと一対一万人となるのだが、この日のライブはどこでも一対一だった。直近で発売されたアルバム「BABY」のCDを持っている人がいるか問いかけて、その人から手渡しでCDを受け取って花道でそれを開封していわゆる「ペロリ」の存在を教えてくれたり(当然私は知らなかった)、ファンと普通に会話する光景などなど(もう一度言うが一万人近く収容する横浜アリーナ、でだ)、常に一対一だった。ファンはaikoが好き。aikoさんも(負けじと)ファンが好き。そう、まるで恋愛関係、だった。しかも、ラブラブの。

「aikoさんはファンと一緒にライブを作っていますね。」

終演後の関係者挨拶で、そんなお話をさせていただいた(aikoさんがなんと返したかはここでは明かさない)。関係者挨拶でもaikoさんはステージと何ら変わらないaikoさんだった。その他にもいろいろあるんだけれど、とにかく他のアーティストではまず見かけなかった数々のこと(対関係者という点で)に感激した。でもそれは別に関係者だから、というものではなく、あくまでこの日のライブの延長線上だった。

そう、目の前にいる人を楽しませようと全力になる、ということ。

横浜アリーナの帰り道、これは仕事とかではなく一個人として応援しよう。そう思ってすぐに携帯公式サイト(Team aiko)に入会し、ファンクラブ(Baby Peenats。以下BP)にも入った。アーティストのファンクラブに入ったのは、高校時代のドリカム以来だから20年ぶりくらいだった。