左胸の石井優希

久光スプリングス
all text and photographed by
Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

私の印象だが、久光はチームの輪というよりは、プロとしての職人集団という印象だ。テクニカルタイムアウトでも監督の指示はわずかで、控え選手たちもさっさと引き上げ、すぐにコートに向かう6人だけになっている。あなたたちはプロだ。6人だけで解決しなさい。そんな印象だ。この写真なんかまさにそうだ。NECは監督も控え選手もいるのに、久光は6人だけだ。

そんな職人集団の久光を結束させていたのは、勝利だったと思う。勝つという結果が出ているから、まとまる。ところが勝てなくなったから瓦解した。それがこの19/20シーズンだったと思う。私自身、15/16のファイナル3で、そして去年のファイナルで涙をのんだ憎き相手だけれど、強い久光を見たいということの裏返しでもあったので、見ていて私までつらさも感じるシーズンだった。

そして石井選手は既に書いたけれど、「個」よりは「輪」のタイプだと思うので、本当は和気藹々とやりたいけれどそうもいかない…自分を押し殺している…そんな印象だった。これは1月の岡崎大会の様子だけれど、個人的にはどこか、テクニカルタイムアウトで控え選手もスタッフも参加して打ち合わせしているNECをうらやましく見ている、そんな印象すら受けた。だってこのとき負けていたのは久光だったのだから。ああいう円陣を組まなきゃいけないのは本来ウチの方なのに…

レギュラーシーズンはあやうくチャレンジ4に回る可能性もあったけれど、直接対決となった12/14の水戸大会で日立を3-2でなんとか下し、ファイナル8には進めた。でも、このレギュラーラウンド最終試合の、1/5の岡崎大会は、NECに勝てば3位の可能性もあったのに、どこかあっさりとストレートで敗れてしまった。ファイナル8に向けて手の内を見せない死んだふりなのかな、とも思ったけれどもはやそんなチームでもなかった。

得てしてレギュラーラウンドとファイナル8のような短期決戦ではチームはガラッと変わったりもするのだけれど、久光はそんな要素はないな…と思っていたのだが、初戦のスターカンファレンス首位のJTに第一セットこそ取るもそこまでで1-3で敗戦(これは現地で見ていた)、そして岡山にフルセットで敗れ、セミファイナル進出を絶たれてしまった。

でも、キャプテン・石井優希選手としては成長していたとこの記事を読んで思った。自分から声掛けしている印象のあまりない石井選手だったが、こういう言葉を発するようになったんだな…と思った。

「私たちは持ちポイントがなく不利な状況だけど、挑戦者だからプレッシャーとか何もない。攻めていくだけだから自信を持っていこう。まずは私が自信を持ってやります」と声かけをしました。タイム間にも「明るくみんなで自信を持っていこう」と。

引用元:バレーボールマガジン
JT・小幡真子「シンプルに勝つことしか考えていない」、久光製薬・石井優希「まずは私が自信を持ってやります」
 2020年1月12日にサイデン化学アリーナ(埼玉県)で行われたV1リーグ女子ファイナル8・Bグループ第1...

そのきっかけの一つが、交流戦が始まったころに送られてきた中田監督からのLINEだったという。

時事ドットコム

キャプテンだからこうしなきゃ、みたいな責任感に苛まれていたのかもしれないけれど、自分なりの、というか、自分がなれるキャプテン像、というのをシースン終盤につかんだのではないだろうか。遅いということなかれ。今シーズンは実質3か月の短期決戦だったのだから。

2020年1月19日、YMITアリーナ。

前日岡山に敗れセミファイナル進出もなくなった久光にとって、今シーズン最終戦。相手のトヨタ車体は、勝てばセミファイナル進出。試合に挑むモチベーションは傍から見れば一目瞭然だ。

ところが。前日に石井選手はこんな言葉をチームのメンバーにかけていた。キャプテンとして。

しんどかった、そして結果も出なかったシーズンだけれど、最後も負けて「ああ、今シーズンはホント、いいこともなくダメなシーズンだった」と終わったところで何が残るのだろう。

「結果は出なかったけれど、でも、やることはやったじゃないか。せめて、その証を残そう。最後も、やることをやろう」

王者・久光のプライドとかそんなんじゃない。一プロバレーボールチームとしてのプライド、だったのではないだろうか。

このときVOMに輝いたことで、結果的にキャプテンとしてファンに挨拶ができる場となった。そのインタビューはYouTubeで一部が見られるので、久光ファンならずともぜひみてほしい。

※5/10までなら試合丸ごとVTVで見られます。

最後みんなの気持ちがコートに出て…試合に出る出ない関係なく、本当にみんなが一つになった試合で(以下略)

引用元:VOMインタビューより

この日が、本当の意味でのキャプテン・石井優希の誕生した試合だったのではないだろうか。

修羅場をくぐった人は、強い。そしてその笑顔は、より輝く。

ちなみに左胸の石井優希というタイトルだが、バレーボールの世界を勝手に乃木坂46や欅坂46の坂道グループに重ね合わせていて、乃木坂46に「左胸の勇気」という曲がある、ただそれだけだ。でも、ユニフォームの左胸に久光のエンブレムもついているし、ちょうどいい、でしょ?(笑)

どんな暗闇に迷っても 生きてれば出口はある

絶望する前に 勇気は左の胸に

引用元:乃木坂46「左胸の勇気」

あ…石井優希選手の優希は「ゆうき」ではなく「ゆき」だったのを忘れていた…