左胸の石井優希

久光スプリングス
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もちろん、アタックのシーンも躍動感があったり、バックアタックも決められる選手なので(私はバックアタックはバレーボールの華だと思っている)プレー面も注目していた。

そして迎えた2019年のW杯。黒後選手がケガで、古賀選手もどこか不調、という状況もあったけれど、個人的にはエース・石井優希でいいんじゃないかと思っていた。中田監督は「リーダーがいない」と言っていたけれど、アンチ中田監督の人たちは「お前がリーダーを作ってこなかったんだろ」と一斉に批判したけれど、あれは誰かに手を挙げさせるための発言だと思った(監督というのはそんな単細胞ではなくもっと奥まで考えている生き物だ)。

石井選手がいつ、私がリーダーとなってこのチームを引っ張ります、と言い出さないかな…と思っていた。年齢的にも、そういう存在だ。東京五輪のリーダーは石井優希選手で。私はそう思っていた。

そんなとき、石井選手が19/20シーズンの久光のキャプテンに就任したと知った。個人的にはちょっと意外だった。簡単に言えば長女というよりは次女というか。引っ張るタイプの選手だとは思っていなかった。ただ、酒井監督の理由を知って納得した。人間としての成長も期待してのものだったし、本人も東京五輪を控えて成長したいという意向があって受諾したようだ。

酒井監督は石井選手の人間としての成長も期待してキャプテンに任命したとおっしゃっていました。

引用元:バレーボールマガジン
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石井は「来年に五輪を控え、自分がもう一段成長するためにやっておくことも必要。視野も変わると思う」と決断した。

引用元:西日本スポーツ
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東京五輪の日本代表を引っ張る存在になってほしい。そのためにはもう一皮むけてほしい。修羅場をくぐってほしい。酒井監督はそう考えたのではないだろうか。キャプテンに任命するというのはそういう側面もある。成長している人を指名するのではなく、成長を促すために任命する(誤算だったのは本当に修羅場になってしまったことかもしれない)。

19/20シーズンを迎えるにあたって、キャプテン・石井優希選手、という新たな注目ポイントが生まれたのはVリーグ好き、そして撮る側としては楽しかった。そんな私が初めて久光、そしてキャプテン・石井優希選手を見たのは11月の大田大会だった。

ちなみに私は試合前のキャプテンのルーティーン───審判の笛とともに駆けつけて、サインをして審判と相手のキャプテンと握手をして、コイントスをして、どちらになったかを監督、そして選手たちに伝える───が好きで撮りどころの一つなのだが、さっそく石井選手のその姿も収めた。

大田大会までの久光は日立、姫路をストレートで下したのち、岡山にストレート負け。2勝1敗で日立、そしてNECとの試合だった。日立戦はフルセットの末2-3と敗れた。日立が久光に勝ったのはVリーグのレギュラーラウンドでは16/17シーズン以来約3年ぶりだった。そして翌日は0-3とストレートでNECに敗れた。あっさり敗れた。そんな印象だった。少なくとも昨シーズン見せていたような王者・久光の戦いではなかった。

日立同様、NECも久光に勝利したのはVリーグのレギュラーラウンドでは16/17以来だった(もっと言えば16/17のファイナル以来だ)。私自身はプレミアカンファレンスの首位予想は久光だったのだが、あれ?なんかちょっとおかしいな、去年までの久光じゃないな、と思って見ていた。

その歯車の狂いを感じていたのか、試合後の応援団への挨拶で石井選手が涙ぐんでいたのが印象的だった。後で聞いた話だが、この日は石井選手は出待ちも素通りしたという。出待ちでの対応ぶりも聞いていたし、ファンサービスに熱心な石井選手、としては極めて異例だったと言えるだろう。

ちなみに前日の日立戦の後ではこんなコメントを残している。

先週までの試合でキャプテンという重圧があったり、変に自分にプレッシャーをかけていた部分がありました。「チームをまとめられていない」と思って自ら暗くなっていた部分があり、 それがプレーにも出ていたので、そこをいちばんに反省し、自分らしいキャプテンをやっていきたいです。

引用元:バレーボールマガジン
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そしてNEC戦の後はチーム公式を通してこんなコメントを残した。

自分たちのバレーのあり方も変えていかなければならない。

今までの戦い方ではダメだ。そう思い至った一戦になったようだ。チームとしてはいろいろ事情があったと思う。長年チームを支えてきた古藤選手の退団、W杯の関係で代表選手の調子が上がらない、かつ、チームとしての成熟度が上がっていない…

今までもそんな状況でも底力で勝ってきたけれどもうそれでは通用しないのでは…そんな試合だったのではないだろうか。

個人的に石井選手が大変だったろうなあ、と思うのは、久光は常勝集団なだけに、負けが込んだ時の立て直しのノウハウがないのでは、ということだった。