行けるところまで行こうとしたチームは、開幕から無敗、21連勝でレギュラーラウンドを制した。尼崎大会で勝った後に控えエリアの選手たちも飛び出してきて、まるで優勝したような光景だなと思ったが、そうか、優勝していたんだと気づいた。優勝が決定した瞬間は試合でではなく順位決定方式の変更のタイミングだったし、試合、かつ有観客で優勝の喜びを表現したかったのかなと思った。
シーズン優勝ではないのにまるで優勝したような気になって、勝負はこれからなのに、と思う人もいるかもしれない。たぶんだけれど、久光だったら間違いなくやらないだろう。でも、レギュラーラウンド優勝がどれだけ貴重なものだったか。いつ打ち切りになってもわからないシーズンのレギュラーラウンドを一位で完走できた。レギュラーラウンドが成立しなければファイナルもない。だから、ここでいったん喜ぶべきだと私は思う。
セミファイナルでデンソーを破って迎えたファイナル。相手は今季唯一の黒星を、2か月前の同じ大田の皇后杯決勝でつけられた、JT。その無念を晴らす絶好の舞台だった。第一セットは開幕無敗22連勝の勢いそのままに取った。よし、行ける!
でも。そこまでだった。
私はレギュラーラウンドとファイナルステージがあることは全然いいことだと思う。長期のリーグ戦と一発勝負の短期決戦、その両方の強さを併せ持つチームこそが真の強いチームだと思うからだ。そして、今季の東レは真の強いチームではなかった。それだけの話だ。残念ながら。
JTは選手の能力以上に一枚も二枚も上手(うわて)だった。簡単な言い方だが試合巧者だった。でも、JTだって一朝一夕で強くなったわけではない。2年前にファイナル3でウチに敗れた悔しさがあったから強くなったチームだ。ウチもここから強くなればいいのだ。
優勝が決定した瞬間、私はJTにレンズを向けていた。私は東レの試合の時はレンズを向けることすら相手チームの応援につながると思っていて(関心を向けることになるので)ほとんど無視するんだけど、相手チームの優勝の瞬間は称え、敬意を表する意味も込めて相手チームを撮る。皇后杯決勝と同様、このときもそうしていた。
ふと東レ側を見ると…ハッとした。皇后杯決勝とは全く違う光景が広がっていた。座り込んで号泣する関選手に何人もの選手が寄り添っていた。推しの選手は中田選手に抱き着いてずっと泣いていた。よくよく考えたら小川選手は春高の決勝でも準優勝だった。また優勝できなかった。
見ていてものすごく胸が詰まった。淡々と結果を受け止め、冷静でいる自分が恥ずかしくなるくらいだった。2年前同様、準優勝なのだから胸を張れという感覚(外国人選手は基本的にこういうメンタリティー)のヤナは別として、黒後キャプテンも表情を変えずに冷静にふるまっていたのは救いだった。動じないその気持ちがあるから、ここまでチームを引っ張ってきてくれたのだから。
特にヤナは関選手にタオルをかけて、手を当てて何か言っていた。上を向くようなジェスチャーもしていた。関選手から初めて笑みが見えた。思えば2年前も試合後に泣きじゃくる関選手に声をかけていたのは彼女だった。たぶんだけど、ヤナのかけた言葉はファンのみんなもかけたかった言葉だったと思う。
長い試合後のセレモニーも選手たちはずっと立って聞いていた。そしてこれまた長い表彰式も終え、応援団に挨拶をして選手たちは引き上げた。少しJTの選手たちと交わる形になったので、小川選手は姉とすれ違う形になった。二人は数秒抱き合った。たぶん言葉は交わしていない。そして二人は離れた。別々の道を歩き始めた。そこには笑みなど全くなかった。悔しさを必死に押し殺すような小川選手の表情が印象的だった。それはもはや姉妹ではなく、ライバルの光景だった(この光景は姉妹二人だけのものなので、写真をアップするようなことは絶対にしない)。でも、今にして思えば妹はようやく姉と対等の立場に近づいたのかもしれない。ライバルになれたのかもしれない。
彼女たちはまだ成長の道半ばだ。若さは一方で経験の不足だけど、このファイナルはあふれるほどの経験を彼女たちにもたらしてくれた。さあ、これからだ。また走り始めよう!
私は年明けに好調の要因を分析したブログを書いたんだけど、
これを打っているときに自然とこんな言葉が出てきて、あー、まさにこれだよなと思った。
今シーズンの東レアローズが私たちに見せて、示してくれたことって、この言葉に尽きると思う。
だから、アロともたちを虜にしたのだ。
「壁は乗り越えるのではなく突き破っちゃえ」
風の谷の東レアローズ20/21シーズン
完