久光 制約からの脱出プロジェクト~後編~

久光スプリングス
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

金儲けかよ…と思う人もいるかもしれませんが、はい、そうです。グッズは貴重な収益源です。そして、いかにファンのニーズに合わせた商品と価格帯にするか、がMDの腕の見せ所なんですよね。高すぎたら売れないわけですし。

その点では価格帯のバリエーションをつけているのがいいんですよね。さすがに学生さんはユニフォームは買えないでしょうが、ならマスコットボールなら頑張れば買えるかも、というところですし。さまざまな世代やファン層に合わせたラインナップをしている、という感じです。

個人的にはアクリルスタンドをラインナップしているのがわかっているなあ…という感じです。最近アーティストグッズとかでもアクリルスタンド増えているんですよね(個人的には何に使うのかがよくわかりませんが)。

そして何より大事なこと。

ファンは課金したいんです。

グッズ(への投資)というのは愛情の向け先の一つですね。

今までだったら選手が引退することがわかったら、あわてて元々ラインナップされていた選手のタオルとかせいぜいTシャツを買えるだけですが、必ず全選手がグッズ化されているわけではないじゃないですか。となったときにこうして引退記念としてグッズを作り出すことでファンにも思い出の品が手に入るし、課金することで愛情も伝えられる。だって、引退したら推しの選手に投資できる最後の機会はこの引退記念グッズの購入、しかないわけですから!

そして記念グッズを作ることは引退する選手への花向けにもなるんですよね。盛大に送り出してくれているわけですし。選手にとってもうれしいことでしょう。

だからこうして引退選手のグッズをきっちりラインナップして、売るということはとても大事だと思います。だって、木村沙織さんが引退したときは、フォトブックとオフィシャルトレカボックスが出ただけですよ。しかも東レが作ったのではなく各メーカーが作ったものですからね!さらに言えば同時に引退した迫田さおりさんのグッズはゼロですから。

※当時から二人は事務所に所属していたから作れなかったのかもしれませんが…ちなみに木村沙織さんは引退会見で報道陣に配ったオリジナルイラストのシールを、後に切手同封で送ってきた人に事務所で無料配布してました。

そう考えると、引退記念グッズの価値がわかると思います。

言いたいのは「引退記念を売りにすれば稼げる!」という考えで作っているものではない、ということです。確かにMDは貴重な収入源です。だからこそ、力を入れることで経営の安定化を図る、ということでもあるわけです。これが、久光製薬からSAGA久光スプリングスに変わった効果と言えるでしょう。久光製薬の一部門だったら売り上げも収支もそれほど目立ちません。でも一企業として独立したからにはそうはいきません。同じ1万円でも、1億の売上の会社と100万の売上の会社では重みが違いますよね?

これは①~⑥全てに共通することなのですが、

結果的にどん欲になったのです。

売上とかそれだけではなく、ファンの声にも、です。

たぶんですが、久光スプリングスになってよかった、という人ばかりではないでしょうか。

ということでSAGA久光スプリングスの取り組みについて私なりの考察を述べさせていただきました。東レファンなので実態は違う部分もあるかもしれませんが、外部から見た目、ということで参考にしていただければと思います。

なぜ久光がこれだけのことができるようになったのか。その理由が、私は運営会社が久光製薬からSAGA久光スプリングスに変わったことだと思います。これは個人の経験なのですが、私がかつていた会社(V1女子チームを持つ会社です)は大きな会社だったのですが、会社のルールが部署によっては適用しづらいケースがあったんですね。

例えば勤務中のインターネット閲覧の制限がかけられたことがあったのですが、私のいた部署はネットの部署だったので仕事にならなかったりしたわけです。もちろん対象外になったのですが、そのための申請が必要になったり。また、各種の申請も説明が必要だったり、社長印(大きな会社ですから押印申請が簡単に通らなくてその説明にまた時間がかかったり…)が必要だったり柔軟にできなくて。まあつまり、私のいた部署は会社の主力事業からは外れていたわけです。主力事業だったらそんな制限かけないです。

結果的に分社化され、後には売却されたのですが、そういう経験をしているので、今回の久光の動きが痛いほどわかります。例えば新鍋さんを久光製薬としてマネジメント契約することはできないんじゃないかと思います。そんな契約形態、会社の規程にないよ、とか。

つまり、制約から脱出できた、と思うんです。なのでタイトルを「制約からの脱出プロジェクト」としました。そこには運営会社が変わったことで久光製薬スプリングスから久光スプリングスに変わった、つまり「製薬」(制約)が取れたことにひっかけていたりします(笑)。

ただ、「実業団方式」「クラブチーム方式」の二パターンから基本的に成り立っているVリーグで、いわばハイブリッドというか、実業団がクラブチーム的なやり方に移行する、という一つのモデルケースになるのではと思います。

ちなみに久光のホームページだと、久光製薬株式会社はTOP PARTNERと位置付けられています。これが全てですよね。つまり、SAGA久光スプリングスは久光製薬から支援を受けている、スポンサー企業の扱いと言えます。実は久光の名前を付けているのはネーミングライツなのではとも思えなくもないわけです(さすがにそこまではないだろうけど)。

ではなんで久光製薬がバレーボールチームを持ち続けるかというと、サロンパスをはじめとしてスポーツ産業とのシナジーが発揮できるから、なんですよね。なにせ代表チームもスポンサードしているくらいですから。その点ではよほどのことがない限りは会社としてバレーボールチームは持ち続けるでしょう。