君の名は日立リヴァーレ第四章

日立Astemoリヴァーレ
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

その日は朝から憂鬱だった。

2021年3月7日。私は東レアローズのホームゲームということで前日から宇都宮にいて、VCupのNEC戦を見た。ホームゲームとは名ばかりで応援団も不在で(東レの企業の一員なので、滋賀からの移動が制限されていた)、何のイベントもないものだった。それはいいとして、その日に翌日のチケットの座席位置を確認したのだが、コートに隣接したいわゆるスーパーシートではあるのだが、一番端。しかもベンチから見て右端なのでつまり線審、場合によってはコートオフィシャルにも被る。私の中で最悪の席だった。

まあ座席なんてクジ運と同じなのでこればかりは仕方ないのだが、あらかじめ自分の席からの光景がどんなものになっているかを、事前に知っているとシミュレーションもしやすくなるけどこういう「がっかり度」が増すこともある。この日はまさにそれだった。観戦に、そして撮るのが難しい席なら「今日は応援に徹しよう!」と切り替えられるのだが、今季は声も出せないのでそれもできない。とにかく憂鬱だった。会社でも大きなことがあり、ぼんやりと今後に不安を抱いていたことも憂鬱ぶりに拍車をかけた。この日が11月の大田以来で、今季4試合目と見る機会が少なくかつ久しぶりの日立戦、ということをすっかり忘れていた。

ブレックスアリーナに着いて、この日のためにやってきた日立ファンの知り合いと話して少し憂鬱がまぎれた私。開場して席に向かうと、びっくりした。目の前で、日立リヴァーレの選手たちがアップで並んでいた。実はなぜかこの日はホームが前日と逆になっていて東レが反対側になっていたんだけど、そんなことはすっかり忘れていた(いや、忘れたらあかんやろ)。あまりに近すぎて、一眼レフで写真を撮るのもはばかられたほどだ(撮っとるやん)。

ただ。にこやかに会話したり、日立リヴァーレの選手たちが集まっているそのオーラというか、それがとにかくキラキラしていたのだ。40すぎたおっさんがキラキラとか言うのもどうかと思うが、この感覚はVリーグファンの女子たちにもわかっていただけると思う。

キラキラ(aikoさんの曲の話じゃない)。

じゃあ他のチームは、というと例えばわが東レはこう言っちゃなんだがキラキラはしていない。高校の部活動というか、汗が伝わってくる感じと言えばわかるだろうか。実は練習中の東レはそれなりに和気藹々さはあるけど、ピリッとしたものも一方では感じる。爆笑するほどの笑いではない、といえば伝わりやすいだろうか。

その点日立は汗はあまり感じないというか、前から言っているんだけど会社の総務部みたいな雰囲気がある(職場はスポーツと違って汗はかかないし)。まあ後、白ユニもそのキラキラ感を引き立てていると思う。白基調に薄い紫のグラデーションはVの中でも屈指のデザインだと個人的に思う。

だから日立って会場の空気を一変させるチームだと思う。キラキラした、多幸感あふれるオーラに包まれる。そこに応援団が熱を加える。それが日立リヴァーレの空気、なんだと思う。宇都宮は東京からのアクセスもいいし、宇都宮大会は一試合だけだったので、前日はNECファン、この日は日立ファン、とけっこう人が入れ替わった。私の周りの席もどこかいつも日立のオーラを浴びて幸せになっている人たちが多かった印象だ。

私は東レ戦だと基本的に対戦相手にレンズは向けないのだが(レンズを向ける=関心がある、ということ自体が相手への応援につながると考えているから)、この日は何しろ席が悪くて反対側に行ったときは撮るのには絶望的な席だったので、日立も撮らせてもらった。試合は、VCupセミファイナル進出をかけ、フルセットにもつれ込む熱戦になった。

試合が進むにつれて私は自然とある選手にレンズを向けることが増えていった。セッターの境選手だった。