2022年の、春になれば久光は

久光スプリングス
all text and photographed by
Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

「優勝奪還目指して頑張ります」。

開幕前の記者会見で彼女はそう抱負を語った。どのチームより短くシンプルな言葉に、彼女の決意が感じられた。優勝を目指すのではない。「奪還」なのだ。そんな話は皇后杯のブログで書いたのだが…

開幕前で優勝奪還を口にしたときも「(でも8位だし…)」「(でも高い目標を掲げることに意味はある)」などと内心思った人は私を含め多かったはずだ。そして皇后杯で優勝したことで、「これで彼女の目標はひとまず成し遂げられたな」と思った人も多いだろう。リーグ戦はさすがに難しいだろう、と。実際年内は3位に2勝差の4位だったし、試合消化数に差があったとはいえ年明けには6位になったので、当然とも言えた。

しかも久光は肝心の終盤戦が過密日程となった。水曜に試合が組み込まれたり、金曜から三連戦になったり、3月5日から4週に12試合と、2日に1試合に近いペースだった。3月末の神戸大会での三連戦で、東レと姫路に連敗したときはさすがにこれで終わった、と思った人も多かっただろう。

ところが3月30日のJT戦に勝利すると、レギュラーラウンド最終節の4月2、3日、3位NECとの直接対決で、二連勝すれば逆転で3位に入れる可能性が出てきた。元々は1月15、16日に予定されていた対戦がこの日程で組まれたのは運命のいたずらだった。

泣いても笑っても最後の直接対決。しかし代替え日程となって会場が確保できなかったのだろう、場所は玉川アリーナ。何のことはない、NECの練習拠点である。NECの敷地内にある施設にも拘らず(当然社員など関係者しか入れない)、少ない人数ながら有観客で開催したことは素晴らしいが、いかんせん客席が用意できず、NECのファンクラブ会員限定となった(久光のファンクラブの上級会員向けの席もわずかながら用意されていたようだ)。

一大決戦なのに、選手たちを会場で応援できない。背中を押せない。そんな状況にファンが燃えた。現地で見られなくてもできるだけ盛り上げよう。「#玉川大決戦」というツイートはやがて両チームのファンを巻き込んだ一大ムーブメントになった。

ほぼリモートマッチだけれど、だからこそSNSで盛り上げよう。これも久光ファンにとどまらずVリーグファンにおける変革期と言っていいだろう。この盛り上げがチームに影響したかどうかはわからない。だが、結果久光は二連勝でギリギリで3位通過を果たした。

久光・石井優希「SNSなどを通じて背中を押してくださっているファンの皆さんにいい結果を届けたい」、NEC・島村春世「久光さんはベンチを含め、数字に出ない部分でも素晴らしかった」 V1女子会見
4月2日にNEC玉川アリーナ(神奈川県川崎市)で行われたバレーボールV1女子、NEC対久光の試合後の記者会...

「そういうハッシュタグがあることはぼんやりとは耳に入っていました(笑)」

久光・石井優希「SNSなどを通じて背中を押してくださっているファンの皆さんにいい結果を届けたい」、NEC・島村春世「久光さんはベンチを含め、数字に出ない部分でも素晴らしかった」 V1女子会見 より石井優希選手のコメント

ここぞ、という試合では強さを見せる。玉川大決戦でも久光は相変わらず久光だった。その予感通り、翌週土曜に行われた、このはなアリーナでのファイナル3でも東レをゴールデンセット含めて撃破した。フルで5セットもやったにもかかわらず、翌日曜のファイナル初戦は休養十分のJT相手に、3-1で見事に快勝した。

二日連続で久光を現地で見て感じたのは、強さの強度具合だった。本当の意味で「強い」「チーム」だった。