2020年12月。私が主宰するVリーグ女子会の忘年会で、恒例のドラフト会議をやったときのことだ。二巡目の指名で、7チーム中3チームがある選手を指名した。それが、松井珠己選手だった。その年に加入したばかりのルーキー、しかもレギュラーではない彼女にそんなに指名が集まるとは。元々彼女の名前はこの界隈からよく聞かれていたのもあって、それから注目するようになった。2019年、石川真佑や山田二千華はじめ若手中心のメンバーながら、キム・ヨンギョンも出た韓国代表を準決勝で破って優勝を果たした第20回アジア女子選手権大会のレギュラーセッターだった、ということは後で知った。
その年の20/21シーズンのデンソーを見る機会は少なく、出ても二枚替えだったのでちゃんと見られていたわけではなかったのだが、表情を変えずにポーカーフェイスでサインを出す田代選手に比べてにこやかな、どこか歌のお姉さんみたいな雰囲気があって、面白いなと思った。
その後デンソーは、4位からさらに上位進出を狙える位置にいたけれど、感染者が出た関係で試合を欠場した影響が出て、急に失速。埼玉上尾と岡山の猛追を受けていた。レギュラーラウンド最終節となる、2月13・14日の尼崎大会で連勝すれば自力で4位通過、というギリギリの状況に追い込まれていた。
岡山との初戦をフルセットでモノにした翌14日、久光戦。第一セットを落とした後だった。この日もスタメンを外れていた彼女は、兵頭選手と対人をしていたのだが、そこに田代選手がやってきて、交代だと促した。川北監督は思い切って彼女に切り替えたのだ。おっ、と思った。ある意味奥の手を使ったということか。
そして、彼女はまるで、このためにずっと控えにいた、と言わんばかりに躍動した。大胆にツーを決めたり、チームの雰囲気が変わった。
もっともすんなり勝てたわけではなく結局フルセットにもつれ込んだんだけど、彼女が流れを変えたのは明らかだった。あと、個人的にはブロックのときにとっさに手を引っ込めるプレーにも惹かれた。インテリジェンスのある選手だなと思ったし、今までそこそこVリーグを見てきたけれど、そう思わされたのは彼女が初めてだった。
21/21シーズンは田代選手が抜けたことで、彼女が正セッターとしてチームを牽引する。デンソーは生まれ変わる。だから私は、開幕前のVリーグ女子会の順位予想で「デンソーは下馬評ほど悪くはないよ」と言って5位に予想した。といっても5位だけれど、下馬評からすれば高い予想だった(狩野舞子さんは9位、迫田さおりさんに至っては11位である)。