Vリーグ、というよりバレーボールに興味を持ったきっかけは、たまたまテレビで見た2015年のW杯だった。木村沙織選手の容姿や古賀紗理那選手の若さに惹かれたのがまず最初ではあったけれど、元々テニスはしていたし、同じコートスポーツ、かつ、アタックなんかはテニスでいうところのスマッシュと同じだったり、と、競技に一種の共通性があったのでバレーボール自体に興味を持つようになった。
スポーツに興味を持ったらまずはリーグ戦を見るというのが私のポリシーなので、Vリーグについて調べたところ10月末に東京体育館で開幕戦があるという。ということで初めて見たのが久光対上尾だった。
その後GAORAで見たり、木村沙織対古賀紗理那を見るために12月の川崎大会に足を運んだり、皇后杯なるものがあることを知って足を運んだり、と、Vリーグのチームをいろいろ見ていくようになっていった。
やがて、どこかひいきのチームを作りたい、と思うようになった。日立リヴァーレの応援団の雰囲気も好きだった(野球といいサッカーといい私がこれまでファンになったチームは応援団の雰囲気がきっかけになったことばかり)し、NECレッドロケッツの団結力(コートに入ってまず円陣を組む)も好きだったし、唯一の市民クラブである岡山シーガルズにも興味を持った。初昇格でいきなり3位に入った上尾メディックスにも惹かれた(私は埼玉出身なのだ)。木村沙織選手に興味を持ってVリーグを見始めたのは事実だけれどそれはそれとして、無条件にひいきのチームにするつもりはなかった。
皇后杯の試合前。目の前に見えた東レアローズのベンチで、選手たちが座ったままなんか儀式をしていることに音で気づいた。見ると、選手とスタッフが一列になって手を二回叩き合ってバトンリレーのようにしていっていた。その叩き合う音、だった。
その光景が妙に印象に残った。
次に東レアローズを見たのは、ファイナル3だった。試合前のバトンリレーは相変わらずだった(後で気づきましたがこれは別に東レだけでなく他のチームでもやってますね)。ただ、その後、試合前にスターティングメンバーがコートで円陣を組んだ後に輪になって走り出すことに気づいた。
スポーツチームというのは勝負事である。真剣になる。だけれど、そこに一種の連帯感を高める特別な儀式があるかどうかは、思いっきり個性が出ると思っている。その点では試合前練習で入場して即、選手スタッフ全員で円陣を組むNECも好きだ。
ただ、東レは輪になって走り出すという「かもめかもめ」みたいな、遊びではないんだけれど、なんか楽しさが感じられる儀式をしているのが妙に印象に残った。
東レを一言で言うのなら「輪」だと思うのだ。絆と書くと少し強い印象があるけれど、「輪」はもう少し柔らかいイメージ。チームとしての連帯感というよりは、よりもっと深い、住民としての連帯感、という感じ。そんなあたたかさが、このチームからは伝わってくる。
ではこのあたたかさは誰が作っているのか。間違いなくその中心は木村沙織選手だと思った。私は2016年10月からは一眼レフを持ち込んで本格的に写真を撮るようになったのだが、ファインダー越しに見ていて、得点時の木村沙織選手の喜び方がとても印象的なことに気づいた。
それは、自分の得点でなくても、まるで自分のことのように喜ぶと言うこと。チームみんなのために喜ぶ、といった感じなのだ。
彼女を見ていると、東レアローズというチームがよくわかる。率先して引っ張るという感じでもないと思う。でも、ちゃんとみんなを見ていて、思いやる。そんなやさしさだけがとにかく彼女から感じられる。
東レアローズは、やさしさに包まれている。強いチームというものにやさしさは必要かといったら、優先度は下がるし、下手すると排除されてしまう要素かもしれない。仲間を思いやる前に自分のことを考えろ。そんな考えもある。だからこれは木村沙織選手にしかできないことなのかもしれない。自分ができている上で、仲間まで思いやれる。
私は2016年3月のファイナル3で、東レアローズファンになった。それは冒頭のバトンリレーや「かもめかもめ」もあるけれど、何より大きかったのが、負傷で木村沙織選手がコートを離れた後の戦いぶり、だった。みな、木村沙織選手のために頑張ろうと燃えた。接戦の末フルセットにもつれ込んだ試合は、やがて久光のマッチポイントになった。すると、木村沙織選手がとっさに番号札を取ってアピールした。私を入れて、と。
その動作が本当にとっさだったというか、「このままではこの仲間たちのいるチームが負けてしまう」という思いから、に見えた。なんとかしたい。それに思いっきり心撃たれた。こんな素敵なチーム、応援したいって思うようになるのは当然のことだった。2016/17シーズンは、ついにホームゲームを見に滋賀まで遠征した。今ではすっかり東レアローズファンになっている。
先日たまたま「風の谷のナウシカ」を見た。やがてナウシカが木村沙織選手に見えてしかたなくなった。なんでだろう。少し考えてみた。
東レアローズというのは風の谷の住民なのだ。腐海の毒から守られた風の谷。みんなが和気藹々と暮らす風の谷。それを守るナウシカ。この写真なんかまさに、木村沙織選手の腕の長さもあって、風の谷を守っている感じだ。
木村沙織選手について、「風の谷のナウシカ」のセリフを借りれば、いわば
「蒼き衣を纏いて金色の野に降りたつべし」ならぬ「蒼きユニを纏いて金色のコートに降りたつべし」といったところか。おお、偶然東レアローズのユニも青だ。
そんなチームだからこそ、木村沙織選手は五輪で引退せずに、もう一年、この愛する仲間たちとやりたい、木村沙織としての最後の舞台は東レアローズで終わりたい、と思ったのではないだろうか。
ただ、木村沙織選手がいなくなっても、彼女の残したもの、は、東レアローズという大地に根付き、そこからまた新しい選手を育ててくれる、そう思っている。
だから、来季以降の東レアローズという風の谷がどうなっていくのか。それは追い続けたい、と思った。