選手、以上の木村沙織

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

私が最後に木村沙織選手を見てから3ヶ月、そして彼女が最後に木村沙織選手としてコートに立ってから2ヶ月が過ぎた。あれから2ヶ月。メディアは未だに「木村沙織」を取り上げている。古賀紗理那選手ではなく「ポスト木村沙織」、黒後愛選手を「木村沙織の後を追いかける」とか、相変わらず木村沙織という名前を用いているメディアは、まあ致し方ないとも思う。それは選手たちにとって発奮材料にはなるはずだ。

ただ。バレーボールを報じる人なら、もう木村沙織という名前は使って欲しくないと思う。媒体からは「木村沙織という名前を使わないと読まれない」とかそういう指示はあるんだろうけれど、そういう指示に異を唱えるのもあなたたちの役割なんだと思う。

最後の試合で、引退に関するコメントをNGにしたのも木村沙織選手らしかった。私は主役ではない。主役は他の選手たちであり、バレーボールである。そして引退会見の場で、イラストが書かれたシールを貼った水を配ったのも木村沙織さんらしかった。しかも

「せっかく滋賀まで来ていただいて水しか出さずにすみません」と言うのも木村沙織さんらしかった。

そして、そのシールの反響が大きいと知るとそれを無料で配る(返信用の封筒と切手さえ貼ればもらえた)のも木村沙織さんらしかった。

みんな、木村沙織選手のファンではなかった。木村沙織さんのファンだった。

今のこの状況───どこかぽっかりと穴が空いたような、でもなんか満ちているというか───って何に似ているんだろう。そう思ったとき、花だなと。木村沙織選手という花は咲き終わった。たくさんの人を魅了した後に。でも、その花が生み出した種から、いろんな花が咲き出した。古賀紗理那選手という花。黒後愛選手という花…

きっと木村沙織さんはこれからも咲き、そして新たな花を周りに咲かせるのだと思う。今まではバレーボールという花壇にしか咲いてなかった花が、日常社会という道ばたにやってきた。これから私たちと同じコートで、そこにいる人たちみんなに花を咲かせてくれるんだろうなと思う。

フォトブックで、いつかカフェをやりたい、まずはワゴンカーから、なんてことを言っていた。ワゴンカー!あなたの街にも木村沙織さんがやってくるかもしれない!そして木村沙織さんが作った料理を食べられるかもしれない!

ほら、そう考えるときっと、あなたの心に花が咲いたと思う。

私にとって最後の木村沙織選手の写真。岡山大会でコートを去っていく背中と、その先に待っているファン。なんか、まさに、という感じの写真になった。

木村沙織さん、ありがとうございました。