私は滋賀には縁もゆかりもない東京の人間なのだが、滋賀はスポーツ観戦の慣習があまりないと思っていた。無理もない。全国では5つしかないJリーグのチームのない都道府県の一つだし、野球も大阪のオリックスか愛知の中日、どちらも隣県ではない。メジャーなリーグであるのはBリーグの滋賀レイクスだけだ(ただあいにく今シーズンは不調で最下位に沈んでいる)。
だが、慣習がないのではなく、見るチームがなかっただけだったのでは…と、今シーズン増えていった地元の方々を見て思った。始めは無料招待でフラッと見に来たチームが、手に汗握る接戦を見せて勝利…。それでまた来たくなり、何度も来ているとフルセットの激戦で最後は劇的な勝利…なんてものを見せられるにつれて自分も応援したくなった、そんな理想的なストーリーが描かれていた。そう、これこそまさにさっきも挙げた観戦から参戦である。
実際地元の人に話を伺わせてもらったけれど、まさに上記の通りで、その方はついには初めてアウェイにまで遠征に駆け付けるまでになっていた。
そんな地元の人たちを惹きつけたのは、今シーズンから誕生したマスコット・アロッチの力も大きかった。明らかに子供たちに人気だったし、次第に「アロッチー」という子供の歓声や、手作りのお面まで作る子供まで現れていた。


だが何より。強いんだか弱いんだかわからない…というと大げさだが、突然変異して無類の強さを発揮したり、かと思ったらあっさり負けたりと、気が気でない心臓に悪いチームを見ているうちに、だんだんこのチームが愛おしくなっていったんじゃないだろうか。滋賀から遠く離れた東京から「わざわざ」このチームを応援している身としては、自分のしてきたこと───追い続けてきたこと───がどこか肯定された気持ちにもなった。バレオタではなく、一般の人にも「このチームいいよね」と思ってもらえたことが何より貴重だった。
今シーズンからのチーム名通り、東レアローズ「滋賀」になっていった。そんなシーズンだった。さらに、従来からのアロともは、よりチームを鼓舞しようと応援方法を試行錯誤し、地元の人はどんどんアロともになっていく…。
そう、アロともも「チーム」になっていったのだ。


選手たちも、そしてアロともも、それぞれが「チーム」になっていく。そんな中、アウェイとなるプレーオフに向けてアロともをもっとチームにしたい。あちこちで起きている渦を、大きな渦にしたい。私はレギュラーラウンド最後の大阪戦で、アロともを集めた決起集会を開くことを思い立った。そして集まった人数はなんと21人と、私の予想を大幅に超えた。アロともだって選手たちに負けじと「チーム」になっていった。

* * *
それから一週間後の、2025年4月19日土曜日。
滋賀から遠く離れた川崎で、東レアローズ滋賀はクォーターファイナル第二戦(対NECレッドロケッツ川崎)を迎えた。前日の初戦は、たたでさえ土曜の試合の入りが悪いのにさらに一日早い金曜日ということもあって(そういうことにしておこう)、前日はいいところなくストレート負け。やはり2位と7位では歴然とした差があった…。今日負ければシーズンは終わる。そんな唐突な別れのことはさておき、とにかく今日はいつものアロじょらしい光景が少しでも見られれば…。そう、ウチは崖っぷちになってからが試合開始なのだ。
だが、そんな希望も打ち砕かれ、21-25の第一セットに続き第二セットは12-25と圧倒的な差を見せつけられ、もう後がなくなった。ここでインターバルとなり、ああ、このままあっさりと終わってしまうのか…と絶望的な気持ちでロビーに行くと、そこでは相手ファンのどこか余裕のある会話と笑い声が聞こえてきた。
あっ、これ、過去同じようなことがあったな…