エンドラインのヒーロー・迫田さおり選手

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

迫田さおり選手といえば。

木村沙織選手に興味を持ってバレーボールに興味を持った私は、木村沙織選手という線からも彼女に注目していった。それはつまり、絆として。

リオ五輪が終わって木村沙織選手が現役続行を決めていなかったとき、迫田選手が話しに行った、というエピソードを月刊バレーボールで読んだ。詳しいことは書かないけれど、迫田選手がある意味「もう一年一緒にやりたい!」と言いに行ったというか。一心同体というか…

それは、ファインダー越しに見ていてもどこか伝わってきた。特に私はカメラを持ち込むようになったのは2016年11月の船橋大会からなのだが、つまりこの二人が見られるのはラストイヤー(進退を表明したのは木村沙織選手だけで迫田選手はしていなかったけれど)。二人でコートに立てるのもわずか、という一種の名残惜しい空気がどこか伝わってきた。

この東レアローズで。みんなの東レアローズで。特にシーズン序盤はチームが苦しかったこともあり、とにかく東レアローズを立て直そうというか、少しでも東レアローズのイズムを残したいと思っていた気がした。優勝して有終の美、なんかでなくていい、この東レアローズにいた証をみんなと残したい。そんな思いだったのかなと思った。

私はVリーグの仕組みは詳しくは知らない。ただ、木村沙織選手のように進退を表明して、最後は会見をしたりして送り出されることは少ない、ということはわかった。引退や退団はリーグから公示されるのみ、という感じ。ファンの前で感謝の気持ちを伝える機会も少ない(選手によってはツイッターでそれができるだけまだマシになったのかもしれない)。もっとも企業チームであればその企業の会などで発表するのが筋、というのもわかる気もする(企業チームであればファンよりその社員の方が優先されるというのもわかる。東レは一般向けのファンクラブがなかったり、その傾向はより強い。もっとも東レの手厚い保護の元に東レアローズが存在しているので東レには感謝の思いしかない。企業がバレーボールチームを有することのメリットが薄れている現状、なおさらだ)。

ただ。迫田選手もこういう、ファンの前で何かを発したりする機会なくコートを去ってしまったのはちょっと悲しい。いや、わからない、本人の意向かもしれないけれど、でも、もう少し最後を送り出したかった気はする。これも企業チームの限界なのかもしれないけれど(一社員の退職は、当日付で社内報に公示が出て、あとは所属部門の社員の前で簡単なセレモニー、程度だ)、

でも、でも。

女子バレーボール界において、ロンドン五輪の銅メダルは大きな出来事だったと思う。木村沙織選手が引退するときもその模様がよく流れた。かつては東洋の魔女として世界に名をとどろかせた全日本女子バレーが、五輪出場を逃すようなことになって低迷していたけれどロンドン五輪で復活…みたいなドラマで語られることが多いと思うけれど、

あの3位決定戦の韓国戦で最後の得点を決めたのは迫田選手だった。当然その映像が繰り返し流れた。それはまるで「迫田さおりという選手がいたんだよ」というのを後世に残すためのもののように。

それは彼女にとっての何よりの勲章なのかもしれない。

バックアタックという誰にもマネできない武器を持った、あなたにとってのヒーロー。みんなのヒーロー。

あ、そうそう。こんなこと言うとドン引きされるかもしれないけれど、バックアタックってどこか、デートの待ち合わせに遅れてきた彼女、みたいな感じがする。遠くから走ってきて

「ごめーん、遅くなっちゃった!」

そんなことに重ね合わせるのはきっと私くらいだろうな。