今更乃木坂~あの日、白石麻衣の髪はなびき、西野七瀬の目は前を見据えた~

未分類
all text and photographed by
Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

あの日、若い乃木ヲタに囲まれてライブを見て感じたことは、まず彼らは、乃木坂で初めてライブを見たり、アイドルグループに興味を持った人たちが多いのでは、ということだった。他のグループから乃木坂に流れてきた(ある意味僕がそうだったけれど)、という人は少ないのではと。

そして何よりあの日のスタンドは初々しさがあったというか、どこか高校野球のスタンドのような感じだった。僕のようなおっさんは、プロ野球のスタンドに慣れているから、このスタンドの雰囲気は独特だった。簡単に言えば青春がそこにはあった。ものすごく簡単に言うとおっさんはスタンドでビール飲みながら見ているけれど、高校生たちはアルコールなんか飲まずに一生懸命応援している。そんな感じだった。

神宮と秩父宮のバスラでは「シンクロニシティ」で両会場をシンクロさせる演出があったけれど、あれは若い人たちは感動するだろうけれど僕はおっさんだからそこまでではなかった(似たような演出を過去見ているということもあるし。単にすれているということだ)。

あと、世代が近いということもあるけれど、彼らはメンバーを友達感覚で見ているなと思った。この日神宮にいた人がどれくらい個握に行っているのかはちょっとわからないけれど、ただ何となくだけれどそんなに行っていない気はした(つまりそこまでガチではない)。

そして何より感じたのは、高級フランス料理を食べているような感覚だった。年に数回は味わいたいけれど、毎日食べる料理ではない。そして、何よりカスタマイズができない。だから、乃木坂をきっかけにアイドルグループに興味を持った人が他の現場に行ったとき、そこに面白さを見出す人もいる気がした(実際、九州のアイドルグループの現場でも乃木坂から流れてきた人もいた。彼らはまた去ってしまったけれど)。参加できて創り上げられるライブ。だから乃木ヲタをいかに取り込むかが今いるアイドルグループの成否を左右する気がした。もちろんそこには欅坂という大きなライバルがいるわけだが。

メンバーのことは後ほど。

───カウンターカルチャーの乃木坂

ところで、乃木坂はどうしてここまでヒットしたのだろう。興味を持ち始めていろいろ調べる中で出会ったのがこの記事だった。

乃木坂46、女性アイドルの頂点に立った必然
女性アイドルグループ、「乃木坂46」の勢いが止まらない。2016年11月に発売したシングル『サヨナラの意味』が発売初日で累計出荷101万3000枚となり、同グループで初めてのミリオン認定(日本レコード協会調べ)と…

この中の「AKBは体育会系、乃木坂は文化系」というのがとてもわかりやすいなと。つまり乃木坂はAKBとの差別化を徹底的に図ったんだなと。そういえば神宮でMIXが打たれることはなかったなあ。あと、さっき書いた「サイリウムを両手で持つ」もそうだけれど、これまでのアイドルグループのセオリーなりをことごとく排除したのが乃木坂だと思った。

上記の記事に乃木坂はAKBのシャドー、という記述があったけど、カウンターカルチャーとして成立していったのかなと思った。特に初期は「会いたかったかもしれない」なんて曲があったことを「乃木坂46物語」で知った。

ただ、そんな初期の乃木坂のターニングポイントは「制服のマネキン」だったようで、これは5周年のバスラのDVDでも印象に残った曲だった。これまでの既成概念をぶっ壊す曲。恋愛禁止のアイドルグループが「恋をするのはいけないことか」と歌う。同時に乃木坂の今までの路線も壊した曲だったと思う。

個人的にはこの「制服のマネキン」のイントロが、二回ではなく一回だけでAメロに突入するのがツボだ。あと、サビの終わりの「おーとーなーが」とか「せーふーくーを」もうまいと思う。簡単に言うと変化球というか、耳に残りやすくなる。

せっかくなので少し曲について語らせてもらうと、「ハルジオンの咲く頃」のサビ前の、たたみかけるような、少しバタバタさせる詞が好きだ。個人的に飛行機に乗るとき離陸時によくかける曲だ。

そして「裸足でSummer」は、「You know」の後などで使われる。鍵盤のキーが少しずつ上がっていくのがツボだ(しかもエンディングでは少しエコーを効かせている)。

個人的にはこのあたりはソニーミュージックのDNAという気がしている。「ソニーが本気でアイドルグループを手がけるとこうなる」というのが乃木坂、と言い切れる。

だから乃木坂には明確な世界観とコンセプトがあり、全てそれに沿っているのだと思う。一瞬の隙もない完璧さというか。ものすごく簡単に言うと(男が思い描く)お嬢様学校ってこういう感じ。

今、アイドルグループはたくさんいるけれど、文化系という基軸を打ち出したのは乃木坂が最初だった気がする(昔のグループまで遡ればいるのかもしれないが)。少し話がそれるけれどこの文化系のさらに先に「文学系」「図書館系」がいると思っていて、そのポジションにいるのがMaison book girlだと思う。

文化系という意味ではこの「シンクロニシティ」が一番かもしれない。坂道を登り始めたばかりの僕にとっては最初の曲だけれど、この歌詞のように僕もなにかいろいろ悩みがあると夜にふらっと人並みを求めて街を徘徊することがある。

僕は欅坂はまだそれほど詳しくないんだけれど、乃木坂と違ってロック調の曲があったり、激しいダンスと、これも乃木坂のカウンターカルチャーだと思う。

だから、神宮と秩父宮のあの「シンクロニシティ」で何より感じたのは、僕たちは秋元さんが見たいものを見せられている、ということだった。あの光景を見たときは、このためにこの曲を書いたんだろうなと思ったほどだったし。僕はAKBグループも見ないし秋元さんの携わってきたものを見たのはこれが初めてだったんだけれど、基本的に秋元さんは自分が見たいものを次々に送り出しているんだなと思った。もちろん見たいものは歳と共に変化するわけで。

そして、若者にあふれる神宮を見て、いわばアイドルグループの市場をさらに広げたわけで。若い人たちに楽しさを与えられることってなにより尊いことだなあと思った。