そうやって乃木坂のライブDVDを探すと、ちょうどDVDが出るところだった。どうやら3日間にわたって行われた5周年ライブが、一日ごとにつまり三枚で出るという。とても三枚買うほど興味はなかったからどの日にしようかと考えたときに、一日目はどうやら橋本奈々未さんの卒業公演らしい。二日目は三期生のお披露目とある。三日目はファイナル。乃木坂とは何か、を学ぶなら卒業公演のような特別な公演ではなく、できるだけ通常公演を見るべき。そう考えて二日目を選択した。
ライブDVDとは、自分の好きなアーティストのものを買うもの、つまりファンアイテムであって、ファンではないアーティストのライブDVDを買ったのは初めてだった。こうして初めて見た乃木坂のライブ。真っ先に感じたのは、生駒ちゃんの存在感だった。
僕が坂道を登り始めた頃に知っていたことと言えば、白石麻衣と西野七瀬、橋本奈々未、あと雑誌の表紙で見かけた齋藤飛鳥…それくらいだっただろうか。ちなみにマキアージュのCMを見て指原さんかと思ったくらいだった。だから、センターというか中心的な存在は白石麻衣だと思っていた。でも、あ、違う、生駒ちゃん(なぜか彼女だけはちゃんづけで呼びたくなる)のグループなんだ、と。ちなみに生駒ちゃんが後に出した本を買ったけれど、日経エンタテインメントでの連載をまとめたものだと知ってびっくりした。僕は日経エンタを毎月定期購読していたのに、その存在に全く気づいていなかったということだ。
ライブDVDをぼーっと見ていて気づいたことは他にもあって。「制服のマネキン」が乃木坂にとっての大きなターニングポイントになった曲だったんだということ。「オフショアガール」という神曲があること。そして、いわば推しを探すような目線で見ていたときに引っかかったのは、ある曲での最後の表情と、MCで「お前ら覚えとけよ!」と言い放ち、バンドコーナーでドラムを叩くそのキャラ。ある曲はやがて「裸足でSummer」だと知り、その彼女は齋藤飛鳥だと知った(それが彼女の初のセンター曲だと知ったのは後のこと。だからDVDの最後に彼女が大写しになっていたのだ)。
ライブDVDを見たことで「おおー!すげえ!」となったわけではないのだが、やはり一度歌って踊る、動く彼女たちを見られたのがよかったのか、そこから僕の乃木坂を見る目、聞く耳ががらっと変わった。それまではただ単に耳で聞いていただけの曲は、よりリアルに感じ取れるようになって耳から心の中に入ってくるようになった。「行くあてのない僕たち」とか、今までスマホには入っていたけれどスルーしていた曲が一気にお気に入りになったり。
目にする雑誌の表紙やテレビでも「ああ、あの子や!」みたいに変わっていった。生で見なくてもDVDでもいいから一度はライブを見るべきなのだと思った。テレビの歌番組で見る姿だけではこうはならないだろうと思った。
簡単に言うと「乃木坂脳」になった僕。こうなると、ライブを見たくなった。聞けばバスラと全国ツアーがこの夏にあるという。とはいえどうせチケットなんか無理だろうと思っていたら、モバイル会員に入ればFC先行でたいていどこかは取れる、という話をフォロワーさんから教えてもらい、早速加入。行く公演はDVDと同じくバスラ二日目に絞った。一次は外れたものの、二次で当選。こうして僕はついに乃木坂のライブを見に行くことになった。
───7月7日の神宮外苑で広がっていた世界
7月7日。僕は信濃町駅を降りた。神宮と秩父宮に向かう人の波がまるで大河のように、流れていた。僕にとって初めての大量の乃木ヲタとの遭遇…
「若っ」。それが第一印象だった。これまでいろんなアイドルグループの現場に行っているけれど、これほどまで若者たちが多いというか中心になっているのはそうはないだろうと思った。客層で言うとロックフェスと似ているかもしれない。神宮の席に座っても、回りは大学生や社会人数年目くらいの若い男子ばかりで、43才の僕には非常に肩身が狭かった。
開演前に急にあちこちから口上がわき起こる。そのたびに「そんなことないよー」という声が入る。これが後に「俺の嫁コール」というものであり、僕の推しの界隈でよく行われていることだと知った。僕の推し界隈はちょっと変わった人が多いというのは後で知り合いの人から聞かされた。そりゃ、僕がそうだもの。
まだ夏至前で明るさが十分に残る17時、ライブはスタートした。
ライブでびっくりしたことはいくつもある。まず何よりびっくりしたのは、サイリウムを両手に持つということだった。僕はグッズを事前購入したときサイリウムは買わなかった。最近見ているアイドルグループはサイリウムはあまり使わないということもあったし、まだサイリウムを持つには早いかなと思った。ただ、僕が見て来たアイドルグループのライブのサイリウムは、基本的に一本だけを片手で持つ。
両手に持つと言うことは、つまり、クラップがないのである。「オー(パンパン)、オー(パンパン)」というオーイングではないのだ。
あと、ここでコールを入れるだろう、というのが乃木坂のライブではことごとくなかった。ものすごく簡単に言うと、これまでいろいろ見て来たアイドルグループのライブの常識というか慣例がことごとく存在しなかった。
あと、会場が大きいから当然なのだが、曲の途中で叫ぶメンバー名は、画面に映し出されたメンバーになる。画面は頻繁に変わるし、三期生などが映ることも多かったのだが、ファンはちゃんとついてきていてびっくりした。ちゃんと他のメンバーの顔と名前が一致しているんだなと。僕はまだそれは数人なのでとてもできない芸当だった。