しかもVNLでも、どこか彼女に上げられるトスはいつも雑に見えた。「えーっ、なんで私にはいつもこんなボールしか来ないんだろう」と苦笑いしながら打っている印象があった。もっとも、彼女なら雑でもなんとかしてくれるという信頼感によるものだったかもしれないけれど、いつも損な役回りばかりという気がした。彼女はついてなかった。
そして迎えた東京五輪。彼女の出番は初戦のケニア戦で唐突に訪れた。古賀選手の突然の負傷。コートに倒れ込む彼女の姿に、コート上だけでなく見ているファンまで一気に血の気が引いた。そこに、何事もなかったかのようにニコッと笑って入ってきた彼女の姿に、コート上の選手たちも冷静を取り戻したはずだ。そう、こういうときの石井優希選手、なのだろう。
だが。大事な韓国戦、そしてドミニカ戦では古賀選手が戻ってきてほとんど出番がなかった。そして日本代表はまさかの予選敗退を喫した。そんな中で、古賀選手の不在で一度も撮れていなかった集合写真を撮った。
予選敗退のショックでそれどころではない選手もたくさんいた。でも、チームとしての証を笑って残したい。荒木キャプテンを称えたい。そんな思いからだろう、ここでも誰よりも笑顔を浮かべていたのが彼女だった。
https://vbm.link/v/wp-content/uploads/2021/08/cafdaf54e5ca38ac9e31c997612ff2ce.jpg より
でも。どう見たっていつもの「石井優希らしい笑顔」とは大きくかけ離れたものだ。こうして彼女の東京五輪は終わった。しかも「一旦ゆっくり考えたい」と言っただけなのに、ニュースでは『涙の代表引退「この大会が集大成」』となってしまった。やっぱり彼女はついてなかった。
「私はそんなこと言っていないんです(笑)」
下記のマイナビニュースより
…彼女が最後に「石井優希らしい笑顔」を見せたのはいつなのだろう?
2019年のワールドカップか、それとも18/19のファイナルか…
2021年10月8日。開幕を翌週に控えて、開幕記者会見がV.TVで配信された。そこに久光代表として登場した彼女は、抱負を聞かれて「優勝奪還目指して頑張ります」と答えた。実にシンプルな、でもそれ以上言いようのない言葉だった。優勝を目指すのではない。優勝「奪還」を目指すのだ。取り戻すのだ。
常勝軍団だった久光も、18/19のリーグ優勝以来タイトルから遠ざかった。気づけば当時の久光を知る選手も少なくなった。若い選手たちに優勝の素晴らしさを味あわせたい…そんな思いからの発言と感じた。
今の私がやるべきことはこれだ。そう見定めたかのようなシンプルな言葉だったし、何より力強く答えていた。別のインタビューでも、奪還の二文字を口にしていた。
開幕を前に、私は勝手に全チームの特集記事を雑誌風に作ったんだけれど、石井選手の部分はこの会見を受けて急遽原稿を書き直した。それくらい「奪還」にかける思いが伝わってきたのだ。