フロアの最後尾───この日はPA席の前───のセンター。運よく空いていた。前の方もスペースが空いていたので、遮るものもない、なによりステージは高く、天井も高いSTUDIO COAST…。つまり世界を堪能できる最高の状態でブクガを迎えることになった。同じ本でも、満員電車の中で読むのと、図書館の中で読むのとは違う。東京に戻ってきて最初の現場がこの日のこの場所でのブクガで本当によかったと思った。というより僕は、だからこの事務所主催のライブは、STUDIO COASTでやることにこだわったんだと思う。例えフロアにスペースができようとも。
決められたタイムテーブルより若干早く、ブクガのステージが始まった。というより、会場内に手拍子を模した音が鳴り響いていて、メンバーが登場する前に既にブクガの世界が築き上げられ始めていた。カウントダウンみたいなものだ。
そして怒濤の35分間を僕はずっと見とれていた。VJをバックにした演出も、そして高い天井ならではの音の広がりも、そして、まるで「好きなように染めて」と言わんばかりの、VJがまるでスクリーンのように投影されるメンバーたちの白い衣装…
そしてこれは確か「十六歳」だったと思うけれど、メンバーが広いステージを左右に動いて曲の伸びやかさを表現していたり、「faithlessness」は客席に背を向けるメンバーと正面を向くメンバーを対に見せたり…音と詞からなる曲の世界をさらに広げるダンスに僕はすっかり魅了されていた。これくらい広いステージでないとブクガの世界は表現できないと思う。
ちなみに僕は7月に東京に来たときにアイドル横丁でブクガを見られるチャンスがあったのだけれど、昼の屋外で見るブクガ、というのがどうしても僕の中では「違う」と思ったので行かなかったことがあった。僕の中では暗闇に映し出されるのがブクガなんだ。
この日のMCは、コショージさんと矢川さんだけが話して、すぐに次の曲に移った。そして、「おかえりさよなら」を歌い終えると「以上Maison book girlでした」とコショージさんが言ってステージを去っていった。この日のトリとしてはあまりにもあっさりとした、断絶に聞こえるけれど、そうではないと察した会場からアンコールが響き渡った。やがて、映像と共にBGMが流れはじめたが、それはやがて終わり、再び静寂が会場を支配した。その間、2分はあったかもしれない。ステージにはフラッシュのようにライトだけが点滅して、ライブが終わっていないことを示し続けていた。やがて黒い衣装に身を包んだメンバーが登場して、何も言わずに新曲を歌い上げて、何も言わずに帰っていった。
いきなり、会場にいる人たちが知らない曲を歌い、そして何の説明もなく去っていった。
ブクガはやっぱり断絶だった。えっ、断絶?でも11月のアルバムから新曲披露したじゃん。
僕は正直、ブクガの曲がどの曲も似ていると思うことがある。同じプロデューサーによる作品で、特定の楽器を使ったり明確な世界観が構築されているわけだから、作品が似るということはどうしても起きると思う。
ただ。この日の新曲は、僕は今までのブクガにはない曲だと思った。
今までとのブクガとはいったん断絶するような。そしてこれからのブクガに希望が見えるような。
ライブが終わり、新木場駅までの道を歩いた。駅までの道を歩く人は少なかった。ライブ終わりには物販が行われていた。僕はブクガの物販に行く気はない。僕に対して笑顔で話してくる彼女たちを見たくない。ステージにいるブクガを見たい。
それは、僕なりの断絶と、希望。