第三章「春の真っ昼間、新宿の地下の渇望」
2018年4月28日。
僕は急遽決まった東京出張から、そのまま実家に滞在してGW前半を過ごしていた。東京に行くと決まってから真っ先に調べたのが千葉ロッテの試合で、次はFC東京の試合、その次がブクガだった。幸い「ekoms presents『3souls vol.2』」という対バンイベントがあり、僕はFC東京の試合を見に味スタに向かう前に新宿MARZに向かった。運良く、スタジアムへの通り道だった。
ようやく雪も道路から消えて、桜の開花が近くなっていた札幌と比べて東京は太陽が照り付け、初夏のような天気だった。僕は1月のZepp Tokyoよりさらに重い扉を開けて、階段をさらに地下に下りると、その先にステージがあった。初めて目の当たりにしたぱいぱいでか美さんの脂ののったトークを楽しませてもらった後、トリのMaison book girlがステージに現れた。ついに、待ち焦がれたあのブクガに出会える…間違いなく、この日MARZにいた人たちの中でブクガへの思い入れは僕が一番だったと思う。
初めて冒頭から、そして初めて間近でふれたブクガの世界は、まさに私がこの4ヶ月弱思い描いていたもの、そのものだった。そして、対バンという限られた時間の中で、僕が何より欲していた、渇望していた曲を、この日は運良く目の当たりにすることができた。
それは、「blue light」という曲だった。僕はこの曲を、前述したつらい時期によく聞いていた。明るい曲でもないし、とても暗い曲というわけでもない。ただ、なにか、心を無にしてくれるというか、自分の中のつらい気持ち、そしてどんどんダークになっていく自分を、さらさらと、水の流れのように自然と押し流していくような、そんな曲に聞こえた。
ふと、今これを書いていて歌詞を調べたのだけれど、
「秋に降る雪」
引用元:Maison book girl「blue light」
「あの冬は殺せばいい」
「冷えた道路、白が積もる部屋」
「時計台は知っていたの」
ってまるで札幌で書かれた曲のような(日本人の感覚で一般的な秋の時期にも雪が降るし、時計台もあるし)…だから、今にして思えばこの曲の世界に僕は引き込まれていたのかもしれない。
そしてこの日僕は、楽しみにというか、どうなるのかと思っていたことがあった。それは、MCはどんなものなのか、そもそもするのか、ということ。僕はもしかしたらこのグループはMCをしないのではと思っていた。基本的にブクガは曲の中で笑顔を見せてはいないし(全ての曲を見ていないし間近でも見ていないから実際は違うのかもしれないけれど)、MCという曲の世界から離れた部分、そして何より笑顔とは断絶するグループなのではと思っていた。MCはしない、パフォーマンスでもニコリともしない、みたいなことは、アーティストの世界観を構築するうえで一つのやり方だからだ。
ところがこの日は普通にMCをしたし、5月4日に行われるキネマ倶楽部での単独ライブのチケットが完売目前ということで、メンバーたちが反復横跳びで出口塞いで完売するまで通さないぞ、みたいなことをあの和田輪さんまで笑顔でやっていた。しかも、そこで完売をファンからスマホの画面で知らされたコショージさんが感極まるという(少しは泣いていたかもしれない)、非常に人間としてのぬくもりを感じることがあって、
それは、どこか冷たく無機質なステージでの彼女たち、との対比が示されていた。彼女たちは決して断絶しているわけではないのだ。その後で最後の曲を見た後、どこかホッとした気持ちになって味スタに向かった。