やがて僕は6thバスラの二日目のチケットを手に入れ、神宮球場に足を運んだ。初めての乃木坂のライブ。果たしてどんな光景が広がるのだろう。最初に僕の前に広がったのは、開演前に急にあちこちからわき起こる口上と、そのたびに入る「そんなことないよー」という声、だった。なんかようわからんけどおもろいな。後に僕は福岡のLinQ現場(主現場だ)で、乃木坂に詳しい人にこの話をしたのだけれどその人曰く、これは「俺の嫁コール」というものであり、齋藤飛鳥の界隈でよく行われていることだ、と。「彼女の界隈はちょっと変わった人が多いんですよ」とその人は言ったけれど、それは僕にとっては褒め言葉だった。
初めて生で見た乃木坂のライブ。その一曲目が「裸足でSummer」だったことは僕を歓喜させた。もっとも、齋藤飛鳥はあまりに小さすぎて(身長という意味ではなくステージまでの距離という意味で)、そしてステージ上は女の子ばかりで(初見だとなかなか判別が難しい)ライブ中も彼女の姿を追うというのは非常に難しかった。
話を少し戻す。
だんだん乃木坂46、そして齋藤飛鳥という女の子を知るようになると、気づいたことがあった。それは、彼女は決して前に出る、というメンバーではないこと。休み時間の教室で、他の女の子たちがキャッキャッと盛り上がっている中、一人教室の片隅で机に横たわりながらノートに画でも描いているような、でもそれって他愛のないイラストだったり、というそんな印象を受けた。だから、と言い切っていいのか僕はちょっとわからないけれど、選抜メンバーに選ばれることも少なかったのかなと。
そう考えると「裸足でSummer」でのセンター起用は大抜擢だったと僕は思う。たぶん、何かきっかけがあって覚醒して、一気につかみ取ったという感じなのかなと思った。
この曲は彼女がセンター云々関係なく僕は好きなんだけれど、この曲の魅力は、同じ夏がテーマで海でPVを撮っている「オフショアガール」との対比するとわかりやすいかもしれない。「オフショアガール」はもうカラッとした、白石麻衣の笑顔はじける(でもはじけすぎていない神々しさ)、という感じの曲なのだけれど、「裸足でSummer」はどこか、そんなに明るいわけでもない彼女が、彼氏に海に連れ出されて、急に裸足になられて戸惑う…という、僕の中で簡単に言えばそんな曲だ。その、「そんなに明るいわけでもない彼女」という僕の中での設定が彼女にぴったりだなと思う。
普段はあまり陽の光を浴びない人が一気に浴びる、というのは人を惹きつけると僕は思う。普段あまり笑わない人がニコッとするとその笑顔がより輝く。そんな感じだ。神宮で言えばバレンティンのホームランより代打で出てきた西浦のホームランというところだろうか。
そして、そういう性格だからこそ、自信満面…というわけではないけれど、自信があるときに「ドヤッ」ではなく「ヨシッ」みたいな、自信から来る笑顔なんだけれどどこか控え目な部分がある表情になる、というのが僕の中での齋藤飛鳥の魅力だと思うようになった。
そして、2年ぶりに夏の新曲に彼女がセンター起用されたわけだが、
僕は彼女がセンターに選ばれた経緯は知らないんだけれど(そもそもどういう基準で選抜しているのかあまりよくわからない)、控え目な人が歌う「自己中(心)でいいじゃん!」はより説得力を増すと思うし、だから彼女が起用されたのかなと個人的に思う。例えばなんだけれどこの曲を、グループは違うけれど指原さんみたいな、前に出る性格の人(乃木坂で誰に当たるかが僕はまだ勉強不足でわからないけれど)が歌うとまた全然違う曲になると思う。それはそれで聞いてみたいけれど。
普段自己中で生きないような、控え目な女の子が「ジコチューで行こう!」と言うからこそこの曲が輝くと思うし、新曲がこういうタイトルと彼女がセンターと聞いて、僕は妙に納得した。
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2018年8月21日。僕はあるサッカーとSKE48好きのファンの人が勧める「セブンルール」という番組を見た。ヴィッセル神戸の寮母さんを取り上げた回だったんだけれど、そのテロップを見ていて、あれ?どこかで見たことがあるなと思った。どこでだっけ…
あ。
ということは齋藤飛鳥の「セブンルール」があるのか
その動画は幸運にも、そして少し簡単に見ることができた。その番組を見て、あ、いわゆる「塩」じゃないじゃん、ということに気づいた。番組なり発言なり、いろんなものの一部だけを切り取って、意図とは違う解釈で広まるということはよくある。
そして、そこには僕にとっての素顔の彼女が映し出されていた。一人焼肉をしたり、少し時間が空くと壁にもたれかかったり…
だから僕は、この番組を人にこう紹介する。
「これが俺の齋藤飛鳥なんですよ」
「俺の○○」は、myではなく、to me(俺にとっての)なんだなと。
先日僕はあるイベントでマウスコンピューターのクリアファイルを手に入れたんだけれど、手にして目に飛び込んできた彼女につい笑ってしまった。ポーズをビシッと決めた、堂々とした、カッコいい彼女。これも「俺の齋藤飛鳥」だ。