古賀紗理那のいたVリーグ。9シーズンの光景

NECレッドロケッツ川崎
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

リーグも終盤を迎えた、NEC対日立(当時)の首位対決。それにふさわしく、フルセットにもつれ込む熱戦になったのだが、第五セットでコートチェンジが行われNECが私の見ているサイドに戻ってきたとき、彼女の姿がないことに気づいた。途中で下げられていたのだ(当時の私はまだそんなに観戦スキルがなかったので、反対側のコートで行われていた選手交代に気づかなかった)。今改めて帳票を見てみたが、決定率27.1%なので致し方なし、というところか。

フルセットの末、日立を破ったNEC。首位争いでの貴重な勝利だったが、試合後は笑みも浮かべていた彼女は、応援団への挨拶で整列していた時に突然泣き出した。大事な試合に勝ったのに、自分は最後までコートに立てなかった。こんなに応援してくれる人がいるのに申し訳ないし、情けない───。目の前にいる彼女のその姿を見て、そう推察した。

その後にホームゲームならではのサインボール投げ込みがあったのだけれど、いや、これは写真を見ていただこう(当時はさらに撮影技術が未熟なのでピントが甘いです)。

どこか、泣いた自分が恥ずかしくなったような。悔しさ、情けなさ、恥ずかしさ…。いろんな感情を、ボールに込めて、それを受け入れてくれる味方(応援団)に向かって投げ込んだ。そんな光景に見えた。「もう泣かないもんね」みたいな表情も印象的だった。

今にして思えばアオハル真っ只中、みたいな光景だが、この光景を目の当たりにしたこと、そして写真に収められたことは私にとっても大きなことだった。個人的な話になるが、バレーボールを見るというのは、選手を追いかける(見続ける)というのはこういうことだ、というのを教えてくれたし、何より直前に買ったような、必ずしもいい席でなくても、だからこそ出会える光景がある、ということに気づいた。

この試合を記事にしたが、ファイナルでもないリーグ戦の一試合をこうして残したことに感謝してくれるファンもいたし、私にとって原点となる試合だった。

もうこのときみたいに途中で下げられる選手にはならない。その後行われた久光とのファイナルは、第二戦がフルセットにもつれ込む死闘になったのだが、この試合は一度も下げられることなくフル出場を果たした。途中足がつっただか何かでアイシングをするなど出場が危ぶまれたシーンがあったが、これはおそらく彼女の意地もあったし、当時の山田監督の思いもあったのだろう。

そこにはおそらく、あの大田のリベンジという気持ちもあったはずだ。実はこの試合に負けるとそのままゴールデンセットでの決着になり、彼女の負傷退場は避けたかったはずで、無理はさせられないという中での難しい采配だった。

このファイナルで、個人的には「近江あかりのNECから古賀紗理那のNEC」になったと思うが(実際、近江選手は優勝を花道に引退した)、それはきっと、2016年のリオ五輪の代表落ちでまずはNECで絶対的な存在になろうという本懐を遂げたと言えるのではないだろうか。だから私はこの大田の試合は彼女のターニングポイントになったと思っている。

そして彼女はチームの柱としてさらに飛躍していく。