火をつけさせた前キャプテンの言葉
初めての五輪となった2021年の東京五輪。リオ五輪での代表落ちを経ての晴れ舞台、ということでファンの誰しもが活躍を楽しみにしていた中で、その初戦でいきなり訪れた負傷、そして韓国戦での復帰。どう見てもそんなに早く復帰できるはずもなかっただけに、満身創痍で挑んだはずも、まさかの予選ラウンド敗退…。
次のパリ五輪を目指して…なんて状態どころか代表引退まで考えていたくらいで、復帰こそしたものの2022/23シーズンで選手として引退することまで決めていた(下記の記事より)。だが、そんな中で代表復帰だけでなく、キャプテン就任まで後押ししたチームメイトがいた。彼女がいなかったら、その後の古賀紗理那、は誕生しなかったのでは…。
「私は紗理那が代表でキャプテンをやっていることしか想像できないよ」
Number Web「古賀紗理那はなぜ「絶対ありえない」と語っていた“キャプテン”を引き受けたのか? バレー女子代表の新リーダーが明かす“葛藤の1カ月”」
2021/22シーズンまでの、異例の三シーズンでキャプテンを務めた山内美咲選手の言葉だ。思えばこの二人の関係性も、ファインダー越しに見ていて微笑ましかった。もちろんキャプテンとしてチームメイトに気を配る必要はあるし、山内選手はいろんな選手への気の配り方が見事だったのだが、古賀選手に対しては───エースアタッカーではあったが───また特別なまなざしで見守っている気がした。
だから、代表復帰を相談されたときに、復帰を促しただけでなくキャプテンとしてチームを引っ張るという、もう一段高い古賀紗理那像を示したのでは…と思った。間違いなく、目標を見失っていたはずだし、だからこそ彼女の心にもう一度火をつけさせようとしたのではないだろうか。
代表入りの打診の時点ではキャプテンの話は出ていなくて、それを持ち掛けられたのはその後だったが、受諾したのはいわば山内選手の言葉に導かれた部分もあったのかもしれない。
NECレッドロケッツという家
代表を出張先と例えるのなら、チームは「家」と言える。過ごす時間も代表より多いし、自宅もチームの近くにあるはずだ。そんなNECレッドロケッツという家は、はたから見ていて「練習では厳しく、試合では明るく」というメリハリがはっきりしているチームという印象だ。明るいだけではなく厳しさもあっての絆。
帰る家がそんな絆にあふれる場所ということもさることながら、近江あかり選手と山内美咲選手がいたのは彼女にとってとても大きかったと思う。
思えば。NECがリーグ&皇后杯をともに二年連続で優勝する今の圧倒的な強さを身につけたのは2022/23シーズンから。つまり、引退まで考えていた代表への復帰とキャプテン就任からだ。確かにいつもは和気藹々とした表情も多かった彼女は、このシーズンから鬼のような厳しさも現れるようになっていた。
NECというチームを考えてみると、昔はわからないが、ここ最近、というより彼女が加入してからはいわゆる「打ち屋の得点源の外国人」はいなかった(さかのぼれば2012/13シーズンのイエリズだろうか)。その点では日本代表に近いチームとも言えたし、いわば「仮想日本代表」にはピッタリだったのではと思う。
自分のいる家を引っ張り上げられないようでは、代表でもキャプテンとしてチームを引っ張り上げられない。そう思ったのではないか。
そこまでは書かれていないが、東京五輪から戻ってきてチームとの接し方が変わった、とこの記事に書かれている。NECという家は、厳しさに耐えられる構造だったというのも大きかったと思う。
彼女がそこまでチームに自分をささげたというのは、それだけチームという家に愛着があったからだし、さらにそれは近江あかり、山内美咲両選手をはじめとたチームメイトの存在が大きかったと思う。
そう考えると、チームメイトは文字通り家に住む人たち=家族だったのかもしれない。
とかく代表でのエピソードが語られることの多い彼女だが、そんな「家」にももっと目が向けられたら…と思う。そして、私が木村沙織さんがいなくなっても東レに彼女が遺した空気を探したように、今シーズンのNECから古賀紗理那の空気をぜひ探してほしい、と思う。
それは何も彼女だけが作ったものではなく、この家に代々受け継がれてきたもの、だから。
続いては、少し個人的な思いを…