帰り道は新鍋理沙を語りたくなる

久光スプリングス
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バレーボールにそれほど詳しくない私にとっては、レシーブというのはあくまでミスせずきっちり受けるもの。だが、そのボールをただ返すだけでなく自分たちのボールに変換する、という作業がものすごく大事なことにやがて気づくようになった(これを気づかせてくれたのは当時日立リヴァーレの佐藤あり紗選手だった)。

この、変換作業が新鍋選手はものすごくうまいなと見ていて思った。変換というのはつまり、セッターが思い描くトスを上げられるようなボールを返すということ。つまり、攻撃の基点となるレシーブとなること。攻撃の基点はトスと思ってしまうのだが、違うだなと。レシーブの段階から始まっているのだなと。

これが、あくまで私の印象なんだけれど、新鍋選手はものすごくうまいと思う。守備から攻撃の基点を組み立てられる人。それが、世界バレーを通して気づいた新鍋選手だった。だから、そのレシーブ練習を目の当たりにできるのはものすごく貴重だと思った。フォロワーさんで新鍋選手に憧れてバレーボール選手を目指す人もいるので、その人の参考になるように連続写真も撮ったけれど、途中からはファインダー越しに見るのはもったいないと、たたぼーっと肉眼で見ていた。

※だから試合前の公開練習(公式練習ではないです)はもっと定期的に見られる機会を作って欲しいと思うしできるならチーム名も公開して欲しい。若い人たちの教材になるんです。

「新鍋理沙がひたすらレシーブする動画」とかあったら見てみたい。それくらい惚れ惚れとしてしまった。

この人なら、どんな無茶な仕事でもサラッとやってくれそう、そんな気がした。

「新鍋君、悪いんだけれどこの古いプログラムの改修、マニュアルがなくてちょっと時間がかかりそうなんだけれどお願いできないかな?」

「ああ、これ、2016年に作ったやつですよね。あー、なるほど、ここが問題になっているんですね。わかりました、やっておきます」

みたいな(マジかよ…神だよそんな人…)。

話を戻すけれど、「守備から攻撃を組み立てられる人」ってそうなかなかいないと思う。サッカーだと、最近はGKもパスで攻撃の基点になったり、守備専門と思われていた人が攻撃の基点となる、みたいな傾向があるけれどそれと同じだと思った。もちろん、それが簡単にできる人はいない(はずだ)。おそらくだが、木村沙織さんはそういうことができた選手だったと思う。

そしてもっと言うと、木村沙織さんと新鍋理沙選手はタイプが全く同じなんじゃないかと思う。全く同じだからこそ両立できない、共存できないという問題をはらんだのが真鍋ジャパンだったのではと私は思うようになった。似ているのなら、役割を分担することになる。木村沙織さんは攻撃に使いたい、だから新鍋選手は守備の方を…

それをよしとしなかったのかなと私は思う(あくまで最近バレーボールに興味を持った身としての感想です)。だからそれを不仲とか、拒否とかそういう言葉を使うのはちょっと違うと思う。したくない仕事をしたくないと言い切れなくて何が悪いのか。それで評価が下がってしまうのなら言いたいことも言えなくなってしまう。

話を戻すと、

こういう「攻撃の基点はレシーブから」とか気づいたこと(全てではないにしても)も、私の中でバレーボールを見る目が肥えてきた証なのかなと思うようになった。人がバレーボールに興味を持ちハマっていく過程はいろいろあると思うけれど、「新鍋理沙をどう見るか」が一つの通過点なのかなあとは個人的に思った。もちろん新鍋選手が入口という人もいるだろうけれど、そういう人は「今まで気づかなかったけれど新鍋選手のこのプレーってすごいな!」といずれ思う気がする。

だから。

「今日の試合の、あの新鍋理沙のシーンがさ」とか帰り道に語りたくなったりツイートしたくなる。それが新鍋理沙というバレーボーラーなんじゃないだろうか。

この日のウカルちゃんアリーナの試合は久光がデンソーを3-1で破った。最後のセットの久光は私の近くのベンチ側だった。試合後、ふと見るとすぐ近くに新鍋選手がいた。そこにいたのは鉄の女でも新鍋様でもなく、新鍋理沙という一人のバレーボール女子だった。