世界には黒後愛しかない

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

私が東レアローズの写真を多く載せるようになって、黒後選手のファンの方の女子のフォロワーさんが一気に増えたんだけれど、彼女がこれだけ多くの同性に愛されているのは、そういう本人の性格が何よりそうさせているんだろうなと思った。

この滋賀大会は、私は写真を撮るには席があまりよくなくて、全く視界が遮られないのはネット際しかなかったので、そこの写真を撮ることに神経を向けたのだが、セッターが上げたトスの軌道を撮れることに気づいた。

つまり、セッターが「あなたに託した!」という思いがまるで糸を引くように線となって見られる場所だった。そして、その先に誰が現れるか、は、ファインダー越しに登場して初めてわかる、という構図だった。ファインダー越しという視界が遮られているからこそ、なのだが、いわば答え合わせというか予想クイズみたいになっていてこれはこれで楽しかった(こういうのは、写真を撮る=ズームレンズという双眼鏡で試合を見ているからこその楽しみ方だ)。

で、セッターの関選手が上げる高いトスの先に入り込んでくるのは、たいていはヤナ・クラン選手か、黒後愛選手だった(アウトサイドヒッターだからまあ当然なのだが)。時にはバックトスもあったけれど、そこに映り込んでくるのはいつも黒後選手だった。

この、セッターが託したトス、つまりボールが宙をただよっている、いや、舞っているといってもいいだろうか、その時間が、何とも言えない快感だった。

まるでその間だけ時間が止まっているような…またはスローモーションで動いているような…

きっとそこにはいろんな人の思いが込められているからだと思う。セッターの託した思い、いや、セッターだけでなくそれを見つめるチームみんなが託す…いや、それを見ているファンも固唾を呑むし、相手チームだって「誰がスパイクを打つのか」と固唾を呑む。カメラはそんな一瞬を切り取ることができるのだ。

特に、土曜の試合は、第二セットまで先取されて後がなくなった東レが、せっかくのホームゲームということもありなんとか第三セットは取ろうとするのだけれど、それすら許そうとしないデンソーという、意地と意地の壮絶なぶつかり合いになって、37-35などというものすごいセットになったのだが、

セットポイントが両チームに行き交う中、これを取ればセットが取れる、というときや、その逆でこれを失うとセットが奪われる、というとき、セッターの関選手の上げたトスは、基本的に黒後選手に多く集まっていた。

でも、そのときウカルちゃんアリーナは「もうここは黒後愛しかいないだろう」という空気に間違いなく包まれていた。ここで決めてくれ!セッターの「託す」という思いは、いわば会場の東レアローズファンの総意でもあった。もちろんデンソーだって彼女をマークしているからそのブロックをかいくぐるのは大変だけれど、でも、黒後愛でダメだったら仕方ない。

間違いなく、そういう空気だった。もう、黒後愛しかいない。そんな雰囲気だった。