札幌の街にデンソーエアリービーズがやってきた日

デンソーエアリービーズ
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

2021年5月。21/22シーズンの日程が思いもよらぬ早さで唐突に発表された。私は東レの日程をチェックする次に、札幌大会の日程をチェックした。昨シーズンは2日間だけだったのが、4日間に拡大していた。そして11/20、21に目がいった。この日はV1女子ではこの札幌大会のみの開催だった。私は(ほぼ)即決した。

だが遠征当日になっても、何で私は札幌に行くんだろうという疑問がだいぶあった。自分の好きなチームの遠征、ではない。高いお金を払ってなんでわざわざ札幌に行くんだろう、とも思っていた。

そんな思いは、快速エアポートの車窓から見えたデンソーエアリービーズのチームバスで一気に吹き飛んだ。それはまぎれもない、Vリーグが札幌にやってきた証、だった。遠く離れた西尾からわざわざ札幌までチームバスを持ってきたデンソーに感謝の念が一気に湧いた。チームバスは立派なチームの一員なのだ。

札幌駅から徒歩圏内という好立地の北ガスアリーナ46に着くと、バレーボール部員なのだろう、先生が引率する子供の団体がいくつも集まっていた。興奮を抑えきれないのか、その声から歓喜の様子が伝わってきた。子供たちにとっても、V1女子という国内バレーボールの最高峰のリーグを生で見られるのは格好のお手本になる、貴重な体験。私の考える札幌で開催する意義、が会場周辺にあふれていた。もし札幌に住んでいた時に札幌大会が開かれていたら、私は万難を排して駆け付けただろう。ふと当時の自分と会話している感覚になった。

北ガスアリーナ46にはアルテミス北海道の選手たちも来ていた。彼女たちにとってもV1の試合はお手本になるし、何より「ウチのチームもいつかこの舞台で」という強烈なモチベーションになったことだろう。アルテミス北海道という札幌でくすぶり始めた火に、デンソーエアリービーズは燃料を投下したわけだ。

試合中の会場では、子供たちがデンソーの応援団が流す音響に合わせて赤いハリセンを掲げて盛り上がっていた。また札幌にある男子チーム・サフィルヴァ北海道もアカデミーと思われる子たちが大勢見に来ていた。1月のホームゲームは男女共催。男女がセットになることでお得感も増えるし「男子(女子)も見てみよう」という相互誘導も生まれやすい。これもデンソーがサブホームとしてホームゲームを開催する意義だ。

なぜVリーグにはサブホームという制度があるのか。

なぜデンソーと札幌市はホームタウンパートナー協定を結んだのか。

なぜ、デンソーエアリービーズは札幌で試合を開催するのか。

なぜ私は、わざわざ札幌までやってきたのか。

土曜の試合後、私はスーツケースを引きずって、宿泊先に向かうために市営地下鉄の駅に行った。既に会場から離れていてVリーグの匂いはしなくなっていた。土曜の夕暮れ時とあって、大通公園の地下街は大勢の地元市民であふれていた。そこにもはや、観戦帰りの人はいなかった。「今日はVリーグの試合がすぐそこで行われていたんですよ!」と言いふらしたい気分だった。

駅の構内に入ると、唐突にあるポスターが目に飛び込んできた。市営地下鉄の駅の掲出物ではコンサドーレは多く見かけていたのだが、そこにVリーグが掲出されていたのだ。今歩いているこの大勢の市民も、何度か通る中で一度は目にとめてくれているはずだ。そう思うとどこか誇らしい気持ちになった。

なぜ私がファンでもないチームのためにわざわざ札幌までやってきたのか。

大会はおろかチームもなく、Vリーグの匂いがしないと絶望していた5年前の私に、北ガスアリーナ46を取り巻く光景の数々を見せるため、だったのだ。あの札幌は5年後、こんな街になっているよ!

それを言うために、だったのだ。

※このポスターについては後ほどこんな記事が配信されてました。

このポスター、選手が作ったの? 異色の“デザイナー兼Vリーガー”が伝えるチームの魅力「バレーボール以外でも力になりたい」(市川忍)
黄色いユニフォーム姿の選手の写真に『GO BEYOND IMAGINE』の文字が目立つ。昨シーズンから男子バレーボールV.LEAGUEのディビジョン2に参戦する、サフィルヴァ北海道の試合日程を告げるポスターである。この、目を引くデザインを手掛