2018年10月。札幌移住から一年半がたち、仕事はまだ奮闘が続いていた私に、唐突に告げられた東京への転勤。異動を告げる上司の前で真っ先に頭に浮かんだのは異動の不安とかではなく「Vリーグが見られる!」という感情だった。幸いにというか、結局私にとっての空白期間は17/18シーズンだけで、18/19シーズンから再びVリーグを追いかけられるようになった。「生で試合が見られる」ことのありがたさをこれほど痛感したことはなかったし、今でもそれはVリーグ観戦に対する私の思想の根幹にある気がする。
だが、札幌という空白地帯のことはずっと気になっていた。日程が発表になれば、北海道での開催有無を必ずチェックした。Jリーグがそうなっていったように、バレーボールがもっと盛り上がるためには全国にチームがあるべきだし、200万人近い人口のいる札幌ならなおさらなのだ。実際Jリーグならコンサドーレ、Bリーグならレバンガがある。ただ、ウインタースポーツが盛んなこの地にそれ以外の競技を盛り上げるのは相当大変だな、というのは両チームを見ていてつくづく思った。バレーボールは言うまでもなく、だ。2018年に行われた世界バレーは札幌でも開催されたが、日本代表がそこで試合をすることはなかった。これが現実だった。
ただ、私は参入を目指すチームもできてほしいけれど、なによりV1札幌大会が開催されることが大事だ、と思っていた。少しでもこの札幌という街にVリーグの匂いを漂わせてほしい。バレーボールをやっている子供もそうでない人も、やっぱり代表選手など有名選手のいるV1のチームを生で見られるようになること、が大事なのだ。バレーボールという火はこの札幌の街のどこかで必ずくすぶっているし、大会があることでそれが火となって燃え上がるきっかけになるからだ。
2019年9月。その朗報は唐突に飛び込んできた。デンソーが札幌市とホームタウンパートナー協定を結んだのだ。単なる大会誘致、ではない。コラボレーションである。しかもデンソーは既に郡山市とも結んでいて郡山大会も盛り上がっていたし、なにより市章をユニフォームに入れるチームである。うってつけのパートナーだ。郡山に加えてさらに増やすことにもびっくりしたし(その分地元・西尾開催は減る)、郡山と違って札幌に工場があるとかそういう関係もなかったので、正直意外だった。
ただ。これは実際に住んでいたからわかったことだが、札幌市はラグビーW杯を誘致したりスポーツ振興・誘致に積極的だった印象があったので、なるほどな、と思った。またデンソーは郡山のようにサブホーム制度を有効に使っている印象があったので、いわば双方のニーズがぴったり合致した形だと感じた。
自治体からすればチームを誘致する、チームからすれば本拠地を移転する、というのはいずれもハードルが高い。ただ、サブホームとして試合を開催すること、は難易度もぐっと下がる。自治体としては単なる大会の誘致だとその前後しか盛り上がらないけれど、協定としてならイベントで選手を呼んたり、バレーボール教室に選手を呼ぶといった、いわば活用、ができる。
またサブホームはチームとしても、親会社の拠点が全国にあれば地域密着の一つの形として活用することもできる。デンソーはサブホーム制度を非常にうまく活用しているチームだけに、札幌を加えてくれたことはうれしいを通り越してもはや感謝の思いだった。
事実、早速2020年1月のデンソーのホームゲーム・岡崎大会では札幌市のブースができていた。おそらく帰りの便の関係なのだろう、試合後にはブースはなかったが、こんなメッセージが残されていたのは道民としてうれしかった。
こうして20/21シーズンの日程から札幌大会が追加され、札幌に久しぶりにVリーグ女子の試合が戻ってきた(何年ぶりか、は見当たらなかったが、もしかしたら10年ぶりくらいかもしれない)。地元の知り合いが、地下鉄の駅でデンソーのハリセンを持っている人を見かけてうれしかったと言っていたが、その気持ちがよくわかった。真っ白な雪原にある小さな足跡、とでも言おうか。Vリーグの足跡があること、が何より大事なのだ。この、75%がファイターズ、20%がコンサドーレ、5%がレバンガ、であふれているこの街で。
でも、突然の朗報はそれだけではなかった。
2020年12月。待望のVリーグ参入を目指すチーム、アルテミス北海道が札幌に誕生するというニュースが札幌から飛び込んできた。私にとって待ちに待った、参入を目指すチームの誕生、である。地元のテレビ局もかけつけるなど、それなりに注目を集めたのもうれしかった。
そしてそのメンバーにはNECレッドロケッツにいた奥山優奈選手やGSS東京サンビームズにいた小室祐里選手など、北海道出身のVリーガーもいわばUターンで名を連ねていた。北海道はウインタースポーツが盛んと書いたけれど、もちろんバレーボーラーだっているのだ。主なところではNECの廣瀬選手やJTの橘井選手、トヨタ車体の舟根選手、KUROBEの舛田、道下選手…。監督で言えば山田前NEC監督もだ。なぜ私が全国にチームができることを重視しているかと言うと、地元出身者の受け入れ先としても機能するからなのだ。
あの札幌に、ようやくVリーグの匂いがするようになってきた。