それは、ウィングアリーナ刈谷の二階席から始まった~2024.1.21NEC戦エピローグ~

東レアローズ滋賀
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

「今日の目標は、前回対戦より一分でも長く試合をすることやな!」

あの日、ウィングアリーナ刈谷に向かうシャトルバスの中で、隣のアロともにそんな話をした。偶然にも12月の岡崎大会と同じ組み合わせになった今回の刈谷大会。そのときはNEC、デンソー相手に0-3と完敗。特にNEC戦は奪った得点はセットごとに10、16、20と少なく、72分で試合が終わっていた。あいにく私は行ってなかったのだが、現地に行った人からはひどい二連戦だった、何もできずにあっという間に終わった、選手から気持ちが伝わってこなかった、バラバラになっていた…等々、悪い話しか聞こえてこなかった。

であればそのリベンジを。まだファイナルステージ進出の可能性もわずかながらあるし、12月とは違うところを見せてほしい、と思っていたのだが、そんな期待は前日のデンソー戦であっさりと打ち砕かれた。いや、確かに第一セットは13点と見る姿もなかったが、第二セットはデュースに持ち込む展開になるなど、少しはマシではあったのだが、どこか試合前から既に負けているというか、どこか心というか「チーム」が感じられない試合だった。

そんな状態のチームがこの日、皇后杯も連覇してシーズンでも二位につけるなど、リーグ連覇、そして二冠も視野に入るNEC相手に、とても勝てるはずがないと思っていた。いや、勝つ以前に…

そりゃ一分でも長く、なんてそんな軽口も叩きたくなる。悔しさのあまりか前夜泥酔した隣のアロともは、その言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。さすがに自虐にもほどがある発言だったが、いわば予防線というか、それくらいの気持ちでないと…。バスの窓を叩く雨、そして寒さが、気持ちをさらに暗くさせた。

やがてバスはウィングアリーナ刈谷に着き、私は二階に向かった。そこには東レアローズの応援団席がある。東レの試合は第二試合だったが、いつものように応援団の方や知り合いは既にそこにいて、スタンバイをしていた。岡崎工場がある関係で、愛知での試合は社員の方々が多く訪れるという事情もあった。

いつものように彼らに、昨日はお疲れさまでした、と声をかけた。そしてある人と言葉を交わした。その会話から出てくる言葉から、どこか強い意志というか覚悟を感じた。そこにはチームに対する不甲斐なさへの悔しさ、そして静かな怒りがにじんでいた。簡単に言うのなら、岡崎に続いて今回もこれか、今日もこんなのだったら…というところか。

岡崎に行っていない、いや、行かないという選択をした───これについては私も罪悪感すらあった───私には、当然そこまでの感情がなく、感情が共有できずちょっと怖気づいたほどだった。そこまでこの方は真剣に、そして本気でこのチームのことを思い、考えているのか…。その方を前にした自分は…。「一分でも長く(笑)」なんて言っていたばかりで、まだ舌の根も乾いていない私には、この言葉が精一杯だった。

「相手に不足なし、ですね」
「そういうことです」

会話はここで終わった。私にはこれ以上の言葉はなかった。

相手に不足なし───説明しなくてもいいだろう。昨シーズン、チャンピオンシップポイントまでつかんだのに優勝を阻まれた相手だ。しかも前述の通り今シーズンも二冠連覇にまっしぐら。しかも前回対戦は72分…

少し気まずささえ感じた会話を終え、私は一階の自分の席に戻ることにした。自分のような気持ちの人が、ここでウロウロするのも気が引けたからだ。文字通り、ここは東レアローズを応援する応援団席だから。

ただ…何を思ったかこのとき私は、ふと、持ち合わせていたカメラでシャッターを切った。