三重魂に魅せられて

ヴィアティン三重
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

この時点でヴィアティン三重は開幕から8連敗中の、0勝のチーム。つまり劣勢になることが多く、タイムアウトを取ることが自然と増える。基本的にチームが要求したタイムアウトはそのチームの応援団が使えるので、その都度彼は太鼓を叩いて、一人だけでチャントを歌って選手を鼓舞していた。

だが、たった一人ではあったけれど、その声はよく届いた。たぶん、普段はサッカーの方でも歌っているのだろう。サッカーは屋外競技だから声が屋根に反響せず(屋根があって反響するスタジアムもあるが、圧倒的に少ない)、自然と声を大きくしたり声が通るように工夫する。だから、必然的にそのチャントが耳に残るようになった。

昨シーズンの三重の試合では見かけなかったのは、たぶん感染症対策として移動を自粛していたからだと思う。後、何よりこのように声主体なので、声が出せない応援のしようがない、というのもあったのかもしれない。だから、そこそこVリーグを長く見ている見ている私にとって、このチャントはまた新たな出会い、だった。

そして何より。約一年ぶりに見たヴィアティン三重の選手たちが面白かった。

日曜日はアルテミスのホームゲームということで選手入場時に映像が流れる演出があったのだが、ヴィアティン三重の選手たちが、どんな演出なんだろう、と楽しそうに見ていた。思えば昨シーズンいたV2含めて、大型ビジョンのある会場は珍しかったはずだし、こういう演出の映像を用意しているチームはあまりなかったのでは。

その後アルテミスの選手が名前を紹介されて一人ずつ入ってきて、選手たちとハイタッチを交わしていたのだが、なんとヴィアティン三重の選手たちもネット越しにハイタッチしていた。これから戦う相手なのに!今までに見たことのない、というかありえない(笑)光景が繰り広げられていた。

これだけでも驚いたのに、さらにその後の始球式でも、全員で派手に転ぶパフォーマンスを見せていた。確かに最近こういう風に、始球式で全員が転んでサービスエースにするようなパフォーマンスをするチームは出てきているんだけど、ここまで派手に(笑)やっていたのは初めて見た。

しかも、わざわざ試合前にこんな風に転ぶ練習をしていた。いや、最初はカノアラウレアーズ福岡がやっているようなストレッチかと思ったけれど、この表情を見ると、明らかに始球式のリハーサルだ(笑)。

どうせやるならとことん、ということか。でも、これを始め試合を見ていてもヴィアティン三重から感じたのは、楽しむということだった。かつ、それを試合の勝ち負け以前のものとして価値を置いていた───ということ。

それは何も、勝てないから楽しもう、というものではなく、楽しんだ先に勝敗がある…という感じ。あくまでも個人の印象だが、今シーズン加入した山下とも選手はまさにそんな感じだった。そんなチームだけに、試合を見ていてもいい光景にあふれていた。

日曜の試合も敗れ、ヴィアティン三重は開幕から10連敗となってしまったが、集合写真を撮り(負けて撮るケースは極めて稀だと思う)、そしていつものように場内一周をし、最後は通り道でベンチにいたアルテミスの選手たちともハイタッチをして別れた。これまでいろんなホームゲームを見てきたけれど、対戦相手も一緒になって盛り上げるホームゲーム、というのは初めて見た。

でもそれは選手だけ、ではなかった。それは、試合終了後に起きた。