優勝まであと一歩に迫った昨シーズンに比べ、戦力は大きく落ちた。ではどうするか。簡単だ。戦力を伸ばすのだ。幸い、一応東レである。春高連覇の立役者の一人である深澤つぐみ選手など、それなりに実績のある選手は揃っている。もっと言えば「素材」は揃っているというところか。料理で考えてみてほしい。いい料理になるかどうかはシェフ次第である。
今シーズンはそんなシェフ・関菜々巳の調理過程を見ていたのかもしれない。例えるなら…予約客たちのコースを一通り終えたところに、飛び込みで新たなお客さんがやってくる。一通り終え、メインを出し尽くした中で、冷蔵庫に残された食材には限りがある…。さあ、どうする?でも、そこがシェフの腕の見せ所だったりする。
私は、この点は関選手の真骨頂ではと思っている。過去にも書いたが、東京五輪直前のVNLのセルビア戦での話。決勝ラウンド進出を決め、いわば消化試合。スタメンは、いわゆる控え組になった(このときは関選手は籾井選手、田代選手に次ぐ三番手のセッターだった)。だが、このときのメンバーが画面越しながらとても楽しそうだったのが印象に残った。
もちろんそこには、五輪出場が絶望的な中での最後のスタメン=晴れ舞台、という部分もあっただろう。ようやく試合に出られるという喜びもあっただろう。だが、あくまで個人的な印象であるが、選手たちが自分たちの持ち味、つまりやりたいこと、がどんどんできている、発揮できている、そんな楽しさが、画面越しから伝わってきた。あくまで個人的な印象であり、東レファンのひいき目だと思われてもしかたないが、正直な話、私は当時はそこまで関選手を評価していたわけではないので、そうとも言えない。
だから、関選手は即席のチームであってもすぐにそれなりに戦えるようにできるセッター、という印象をそのとき受けた。それはどういうことかというと、瞬時にその人のプレースタイル(長所、短所)とキャラクターをつかみ(もちろん元々ある程度頭に入れてもいる)、ゲームプランを組み立てられる、ということ。
そんな彼女にとってはまさに真骨頂が発揮される今シーズンといってよかった。OQTで五輪出場を決められなかった悔しさから「勝てるセッターに」と目標を立てた中で、このチームをいかに勝たせるか…
そんな彼女の能力であり、才能が発揮された象徴的な試合がある(繰り返すが、あくまで個人的な印象だ)。それは、2024年1月20日の刈谷でのデンソーエアリービーズ戦だ。
12月の岡崎大会では0-3と完敗だった(私は見ていないのだが)相手に、リベンジどころかいきなり13-25と手も足も出ないまま第一セットを落とす。こりゃダメだ…前回と同じか…そう思った試合は第二セットにガラッと変わり、結果的に奪われたもののデュースにもつれ込む一進一退の攻防になった(その後の第三セットで15-25と、再びあっさり取られてしまうところがウチらしいのだが…)。
そのカギとなったと思ったのが、深澤つぐみ選手の復調だ。第一セットはレシーブミスも目立つなど、どこか自信を喪失して負のループに陥りかねなかった中、アタックを気持ちよく打たせて自信を取り戻させた印象を受けた。事実、第二セットはアタックもレシーブも数字が改善された。
簡単に言えば手を差し伸べたというところか。人は誰だってミスをする。だけれど、そのミスは取り返せることもある。また、「ああ、私はだからダメなんだ」と思ったときに「でも代わりにこれが持ち味でしょ」といわば救済することも、チームとしては大事。それが、関選手は得意だった。
個人的に考える関選手のトスワークの特徴はいくつかあるが、主には
・ミスした選手にすぐにトスを上げる ・ローテーションで次がサーブの選手に決めさせる(気持ちよくサーブに入れる) ・途中出場した選手にすぐにトスを上げて、すぐに試合に入れるようにする
これらに共通するのは「思いやり」なのだ。そしてこれは偶然だと思うけど、深澤選手はその後の試合でもサーブレシーブも安定するようになって、一皮むけた印象を受けた。この試合が転機になったのでは…というのは考えすぎだろうが。
そして、何より忘れてはいけないのは、今シーズン、彼女は頼れる人がいなくなっていたのだ。同じセッターとして、そしてチームスタッフとして支えた白井美沙紀さん、二人三脚だった中道コーチ、何かと目をかけてくれた先輩の小川選手、そしてヤナ選手…
でも。そんな存在はもはや不要だった。
だって、日本代表の正セッターなんだから。
ただ、彼女をめぐるこの状況、というのはアロとも(東レアローズファンの通称)に大きく影響を与えたと思う。ここからはそんな話だ。