昨シーズン終了後引退したり、移籍してチームを離れた選手がいる一方で、残った選手もいる。移籍には相応の覚悟が必要だが、移籍「しない」という選択にもまた、それ相応の覚悟が必要。あのファイナルのスタメンで、残った三人───
まずはなんといっても中島未来選手だ。言わずと知れたキャプテンだが、これだけ前年からガラッと変わったチームのキャプテンを続ける、というケースは他チーム含めてレアケースではないだろうか。普通、チームが一新されればキャプテンも変わる。しかもその一新がいわば勝てるチームから勝てないチームになるわけで、当たり前だけれどそうなるとキャプテンとしての束ね方も変わってくる。勝つという結果が出ていれば自然とチームはまとまるし、簡単に言えば負け続ける中で選手たちをいかに前を向かせるか、に心を砕くことが一気に増えるはずだ。
さらに、開幕時点でリベロ登録選手は彼女だけ。昨シーズンはサーブレシーブはやってなかっただけに単純にプレー時間も増えるわけで、その点での負担も一気に増えたわけだ。
何より、いわば性格の違う───勝てる・勝てない───二チームを経験するようなものなので、これはめちゃくちゃ大変だったと思う。思うけれど、一方でそれができるのはこの人しかいないよな…という安心感もあった。そこそこ長く東レを見ている私にとっては、(彼女も)そういう選手になったか…と感慨深いものもあった。
次は大﨑琴未選手。昨シーズンは井上奈々朱選手の負傷で最終的にレギュラーになったものの、今シーズンはレギュラー定着どころか一気に主力としての活躍が求められた。だが、結果的には一時はアタック決定率がリーグ2位になるなど、大きな飛躍を遂げた。代表選出の大きな基準となるサーブ効果率も6位と、代表入りも見えたシーズンだった。
個人的な話になるが私自身、推しが移籍してしまってその選手のブロード、という撮りどころがなくなってしまったのだが、それは見事に!?彼女が埋めてくれた。サーブレシーブからの素早くあざやかなブロード、はそのまんまクイックに置き換わったし、助走の長いブロードに比べそれはより一瞬の出来事、になり、いかにその瞬間を収めるか、は私にとってもいわば勝負だった。
そして何より、彼女のクイックは美しいのだ。掌の使い方もさることながら、足を揃えて舞うようなフォーム、は他のチームを見ていてもあまりお目にかかれない。それはさておき、今シーズンの東レで一番成長した選手であることは間違いない。
ただ、彼女のそのクイックは、間違いなくトスを上げるこの選手なくしては成立しなかった…そう。セッターの関菜々巳選手である。彼女についてはこの一言に尽きた。
「よくぞ残ってくれた」
ネーションズリーグ、そしてパリ五輪最終予選で日本代表の正セッターに上り詰めた彼女を待っていたのは、日本代表選手がゼロになったチーム。イタリア代表のヌワカロールとタイ代表のタナパンの両選手こそ加入したものの未知数であり、しかもヌワカロールはオポジット。これだけ攻撃力のある得点源のオポジットにトスを上げるのは初めての経験であり、さらに若い選手ばかりのチームとなれば、もし自分がそうなったら「どうやって戦おう」と頭を抱えるだろう。
そう。まさにこの「頭を抱える」中での彼女の奮闘、がそのまま、今シーズンの東レアローズだった。