北の大地で生まれる幸せなサイクル。アルテミス北海道 Vリーグへの挑戦

アルテミス北海道
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

■ロコソラーレが示した「ジュニアからの育成」の可能性

───さて、いよいよ今シーズンからVリーグに参入します。初のホームゲームも2024年1/26-27と2/17-18の4日間開催されますね。

工藤:今回は4試合ということもあり全て札幌市の北ガスアリーナ札幌46での開催ですが、いずれは帯広とか釧路とかにも分けて開催したいですね。

会場となる北ガスアリーナ札幌46は2019年完成。JR札幌駅から徒歩12分とアクセスも抜群だ

───遠ければその分、地の利を生かせるメリットはありますね。寒さに慣れていないチームばかりですし。

工藤:(対戦相手を)いじめてやろうと(笑)。今シーズンについては、V3ではありますが、来シーズンからは新たなVリーグになりますし、そこに向けてしっかり土台を固めるシーズンになると思います。

───その点で告知は欠かせませんが、何より奥山選手がDJの「Go! Artemis」というチームの番組が、FM NORTH WAVEで放送されてます。コミュニティFMなどで番組を持っているチームはNECやKUROBEなどがありますが、FM局で番組を持っているのはすごいですね。

工藤:確かにコミュニティFMでいいのでは、という声もあったのですが、いや、(広範囲の通常の)FMでなきゃダメだ、と(笑)。日曜日の朝7時からと、時間帯的にちょうど出かけようとしている人が多いので、けっこう聞かれているんですよ。

───そういう地道な努力が何より集客につながりそうですね。さて、最後にお聞きします。アルテミス北海道というチーム、はどんなチームですか?

工藤:どさんこの、どさんこのための、どさんこによる、どさんこ女子のチームです(編集注:どさんこ=北海道出身者)。

地元の選手もなるべく5割は切りたくないって思っています。我々は、例えば他のチームが全国約1億人の中から選手を選んでくるとすれば、ウチは約500万人(編集注:北海道の人口)の中から選んでいかないといけない。それでも5割を維持するとなったらジュニアからきっちり育てて、一貫してやっていかないと、この理想は多分実現できないと思っています。

でも、それがやれた時って、本当の意味で地域に根差したチームになるんじゃないかな。
それがやれていたチームって今までないと思うので、それをやりたい。

例えばカーリングのロコ・ソラーレも、常呂町(現・北見市)に立派な施設があって、子供の頃からずっとやっていれば五輪で銀メダルが獲れるまでになるわけで。

北見市にあるアドヴィック常呂カーリングホール。ここからロコ・ソラーレが世界に羽ばたいた

───私も常呂町行ったことがありますが、小さな町の畑のど真ん中に、ものすごく立派な施設がドーンとあるんですよね。ロコ・ソラーレにはジュニア部門もあって、未来を担う選手が続々と生まれようとしています。

工藤:なのでいい環境で子供の頃からやっていること、が何より大事なんです。そうすれば代表選手だって夢じゃないんです。

───サッカーなどと違って、バレーボールにはまだ自前で育成という概念があまりなく、高校任せになっている気がします。今後指導者不足もあり、高校も部活ができるのか、という中でユースの存在は大事だなと思いますね。

工藤:さすがに高校入学の段階で道外に出るのは、旭川から下北沢成徳高校、そしてトヨタ車体に行った舟根綾菜選手くらいで少ないですけれど、結局のところ高校を卒業したら北海道から出ちゃうので。

───そういう子たちを、チームがないと言って北海道を離れるのではなくアルテミスという選択肢ができたし、さらにその1つ手前のユースからアルテミス色にしていきたい、ということですかね。

工藤:別に、SVリーグでやりたい等で北海道を出ていくのは全然いいと思う。ただ、最後の最後はウチで、北海道に戻ってきてキャリアを終えてくれればと。

今、旭川実業高校に笠井季璃(りり)というU19の代表選手がいますけれど、とてもじゃないけれど今のウチは彼女を預かる自信はない。ただキャリアの最後に帰ってきてほしい。それがうちのチームに、いろんな新しいノウハウがたまる、いい流れになればいいなと。

───まさにそれが小室、奥山、そして現役復帰を発表した小山綾菜の各選手が、今後のアルテミス北海道のモデルになるのかもしれませんね。今日はありがとうございました。

アルテミス北海道のオフィスの入口に貼られていた、小室・奥山両選手のポスター

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話を伺った中で感じたのは、アルテミス北海道のモデルが今後のVリーグ発展のカギを握る、ということ。何よりチームが増える、だけでなく全国に広がれば、高校を出ても地元に残れたり、Uターンして現役を続行する、というケースもより増えてくるだろう。さらにユースが充実すれば、選手たちは指導者としてバレーボールに携われるし、その経験を子供たちに注入することで未来を担う選手たちが、地元から生まれる。

そんな幸せなサイクルが、今まさに北海道で生まれようとしているのだ。

また、これは北海道ならでは、だが、北海道は外国人旅行客に人気で、特に雪のない東南アジア圏からの来道が多い。そんな中でJリーグの北海道コンサドーレ札幌は、アジア枠を使ってタイの人気選手を獲得し、タイからの観光客を呼び込む戦略を展開したことがある。これも地域の特性に合わせたチーム戦略だが、偶然にもタイはバレーボールも人気で、Vリーグにも多くのタイの選手がいる。

当然工藤さんとしてもそのことは折り込み済みだったので、いつかはアルテミス北海道としてタイの選手獲得やチーム遠征なども実現するかもしれない。これは他のチームでもやりそうなことではあるが、インバウンドを狙うという点では北海道ほど強みのある地域はないだろう。

各チームがそれぞれの地域特性を生かして輝く。Vリーグはそんな可能性も秘めていると、北の大地で改めて感じた。