北の大地で生まれる幸せなサイクル。アルテミス北海道 Vリーグへの挑戦

アルテミス北海道
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

■スカウトで大事にした「地元に戻ってきて」の言葉

───ここまでの話は経営者としての工藤さんの話でしたが、続いてはGMとしての工藤さんの話をお聞かせください。チームを設立したとき、監督や選手も工藤さんが集めたんですよね?

工藤:そうです。声をかけていったのは私です。

───本当に工藤さんが一から作っていったチームなんですね。しかも競技関係者だったらOGとか後輩とかツテがあると思うんですけど、それもない中で。

工藤:なので、その選手の出身校に行って「連絡を取りたいんだけど」と。ただ幸い、息子も娘も高校までバレーボールをやっていたので、たどればつながりは必ずあるんですよ。あと息子の母校の松田修一監督に「ここの監督知ってる?」と連絡先を聞いたこともありました。

黒と金のカラーリングが印象的なユニフォーム(写真は昨シーズンのもの)。 「このデザインだと男性の方にも着ていただける」とは工藤さん

───息子さんの経歴が活きたんですね。ところでその選手の選定にあたっては、何か基準はあったんですか?

工藤:まず現役選手をスカウトするのはやめようと。ただ数年前に辞めた選手であればルールには何も反しませんし、北海道出身で今でも通用しそうな選手ということでピックアップしたのが南富良野町出身の小室祐里(2018~19 GSS東京サンビームズ所属)と、名寄市(なよろ)出身の奥山優奈(2015~20 NECレッドロケッツ所属)の両選手です。

───なるほど、二人はアルテミスができるからやめたわけではなく、元々辞めていた中で声をかけたわけですね。しかし、まだ実力はあるけれどチーム事情などで引退せざるを得ない選手も多い中、Uターンという形で受け皿ができるのはいいことですね。

工藤:あと監督は早く決めてはいたんですけど、そのことはあまり選手たちには言わなかったです。何より「地元の北海道にチームができるから戻ってきて」ということを大事にしてました。

───全日本でもエースだった、旭川出身の成田郁久美監督を売りにすることもできたと思いますが、あくまで北海道に戻っておいで、と。そんな中、選手はすんなり集まったんでしょうか。

工藤:まず小室、奥山両選手を軸にすると考えて、その次は新潟医療福祉大学にいた山本萌々果選手ですね。札幌山の手高校の時に世代別で日本代表で選ばれている選手で、既に北海道警察に就職が決まっていましたが「すぐにはプレーはあまりできないだろうけど、やりたいです」って言ってくれて。

彼女を含めてトライアウトで集めました。最近だと、昨年加入した札幌大谷高校出身の井澤天音選手も、ジュニアオールスターに選ばれたような実績のある選手です。

───高校を卒業して一度道外に出た選手たちが戻ってきてますね。誘い文句として「北海道に戻ってこない?」と言われていたと思うのですが、一方で肝心の雇用面はどのように説明されていたのですか?

工藤:山本の場合は既に北海道警察の内定が出ていたので、僕の方から「こういう形でプレーしていいか」と道警に確認を取りました。同じようにクラブチームで活動している職員がたくさんいるので問題ないですよ、という回答でしたけど。あと初年度の選手たちは基本的に、ホームページの制作などでルクソールシステムに入ってもらいました。

一方で元々働いている選手たちはそのまま今の職場で働いてもらいながら、職場に対して選手としての活動に理解だけもらった形です。

参入を記念した、日本ルクソールシステムによる「アルテミス北海道応援プラン」

───普段の就業に支障が出ないためには、当然チームとしての活動時間も限られてしまうデメリットがありますね。

工藤:とはいえまだクラブチームなので、練習は火、水の夜と土日だけなんです。V3になっても、これはこのまま継続していきます。

とはいえVリーグに参入するこれからは、練習時間に制約があるとカテゴリーが上がっていたときに勝てなくなってくるので、徐々にスポンサー企業に協力をお願いをしています。

───お話を伺っていると、チームづくりはやりやすかったと言えそうですね。むしろ歓迎されたといいますか。

工藤:全然やりやすかったですよ。北海道のバレーボール協会も協力してくれましたし。息子のネームバリューが強すぎて(笑)、それもあってとてもやりやすかったですね。札幌市からは、クラブチームの間は他のクラブチームとの手前、サポートは基本できないけれど、Vリーグに入ったら他のトップチームと同じようにやりますと言われてましたし。

ただ、何より大変なのは体育館の確保で、全然取れないんですよ。

───特に冬場となると競争が激しくなりそうですね。

工藤:練習を北広島市でやっているのは、教育委員会さんが「この学校を無償で貸すから、全部北広島市でやってよ」と。ホームゲームをやってほしいとも言われましたが、体育館が大会の規定を満たしていないからと理解いただき、代わりに市民向けのイベントなどで還元させていただく形にしています。

ちなみに中止になりましたが、昨年の「全国6人制バレーボールリーグ総合男女優勝大会」が中富良野総合スポーツセンターだったのは、全道の体育館に電話して探して、空いていたのがそこしかなかったからなんです。土日両方空いている、となるとハードルが高いんです。

───てっきり南富良野町出身の小室選手のためかと思ってました(笑)。電話して探すとは、体育館の取りにくさは他の地域より大きいのかもしれませんね。

工藤:せっかくホームゲームとしてやれるチャンスでしたからね。頑張って探しましたよ。