北の大地で生まれる幸せなサイクル。アルテミス北海道 Vリーグへの挑戦

アルテミス北海道
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SVリーグ新設を柱とする「V.LEAGUE REBORN」の発表など、Vリーグを取り巻く環境は今、大きく変わりつつある。そんな中でVリーグに参入するチームは、Vリーグに希望と未来を感じたから参入するはず。ここでは2020年の設立からわずか3年で今シーズンからのVリーグ(V3)への参入が決定した女子チーム・アルテミス北海道を通して、これからのVリーグの未来図を考えてみたい。

今回話を伺ったのは、一般社団法人アルテミス北海道の代表理事・工藤浩さん。文字通りチームを一から立ち上げた仕掛人が語る、チームの作り方とこれからのVリーグとは。
(取材・撮影:有本和貴)

■「女子チームだったらワンチャン、マネタイズできるかも」

───まずはVリーグ参入おめでとうございます。今回アルテミス北海道設立の経緯など詳しくお聞きしたいのですが、まずは工藤さんの経歴から教えていただけますか。

工藤:出身は札幌で、高校を卒業してからずっとシステム畑です。主に業務用のアプリケーション開発などを手掛けてました。ちなみに私はバレーボールは何もしていません(笑)。

───縁もゆかりもなかったバレーボールに携わるようになったきっかけ、はなんだったんですか?

工藤:息子と娘の習い事が長続きしなかったときに私の母が、競技経験のあったバレーボールでもやらせてみたら?ということになって、それからなんです。ちなみに私の息子は工藤泰我というバレーボール選手なんですけれど、東海大学付属札幌高校のエースとして3年間、インターハイや春高、国体と出まくったんです。最後のさくらバレー(全国私立高等学校男女選手権大会)では3位になってベスト6に選ばれたり、北海道の中では名の知れた存在になったんですね。

───なるほど、息子さんきっかけだったんですね。

工藤:彼は東海大学札幌キャンパスに進学したのですが、男子だとヴォレアス北海道とサフィルヴァ北海道(当時。現・北海道イエロースターズ 以下同)の2チームが既に北海道にありました。

北海道在住ということですぐヴォレアスから声がかかったのですが、加入したのが2020年1月からで、直後にコロナ禍になりヴォレアスのある旭川への移動が制限されたので、札幌のサフィルヴァに移籍しました。在学中にVリーグのチームに所属すれば大学を卒業した後、Vの世界にそのまま進むべきかどうかもいち早くジャッジできるだろう、と思って。

───インターンではないですが、それに近いですね。

工藤:で、彼について全国大会に足を運んでいたら、そこには女子チームもいるわけで、保護者の方々と仲良くなったりするわけです。やがて彼が在学中にVリーガーとして地元でプレーするようになると、女子の保護者の方々から「先に上のカテゴリーでできるなんてうらやましい」「なんで女子のチームはないのかしら」という話になって。

───私は2017~18年に札幌にいたのですが、確かに当時は女子チームできる気配はなかったですね。

工藤:ヴォレアスもサフィルヴァも女子チームを作る話はあったのですが、なかなか進展しなくて。そこで僕としては「女子チームだったらワンチャン、マネタイズできるかも」って思ったんです。

───えっ、男子ではなく女子の方がマネタイズ、ですか?それはどういう理由で。

工藤:マスコミの取り上げ方です。

───あー、確かに。例えばサッカーもバスケットボールもそれぞれWEリーグ、Wリーグという女子リーグがありますが、男子のJ、B両リーグに比べれば取り上げられる機会は少ない一方、男女混在のVリーグは代表人気もあって比較的取り上げられます。

工藤:実際、海外のバレーボールを見ても、タイは女子のプロ選手で月に100万円もらっている一方、男子は10万円だと。女子も人気があるスポーツって、バレーボールぐらいじゃないですか。だからマスコミもよく取り上げてくれる。であればちょっとうまくやったら、この北海道でもマネタイズできるかなと思ったんです。

───北海道にもさまざまなスポーツチームがありますが、確かに球技の主なリーグに女子チームはないんですよね。なので、女子チームとしてのメディア露出は独占できるメリットはあります。しかも札幌は200万人を超える大都市ですから。

工藤:あと私が所属している会社(日本ルクソールシステム株式会社 以下ルクソールシステム)としても、システム開発中心で採用も難しくなっていますし、新規で営業先を探すのもツテだけでは難しく、限界も感じていて。何か新たなアクションを起こしたい、と思っていたところで、じゃあ挑戦してみるか、と。それが2020年12月のチーム設立の半年前です。

───まさに工藤さんが立ち上げたチームなんですね。チーム設立の詳細をお聞きしたいのですが、まず立ち上げ時に母体となっていたルクソールシステムとの関係は、どのような形なんですか?

工藤:一応母体企業という扱いにはなっていますが、今は独立採算でやってるので、別です。資本も出していません。一般社団法人北海道レディーススポーツクラブとして設立して、初年度だけでもそれなりの金額を集めたのですが、コロナ禍で幸い遠征も少なかったですし(苦笑)、収支は良かったんです。

───いわゆる実業団方式ではないアルテミス北海道を支えているのは何と言ってもスポンサーですが、新たにできるチームということでスポンサー獲得は難航しましたか?

工藤:全然難航しませんでしたし、逆にスポンサー企業の方から雇用を受け容れようか?という話もいただきました。

───そうなんですか。それはやっぱり女子チームがなかったからなんですか

工藤:大きいのは、企業にとっても選手自身が広報になるからですね。普段の広報としての仕事だけでなく、プレー自体が広報活動にもなるし。なのでジョブパートナー(選手雇用)はいつでも言って、という企業さんが多いんですよ。

───確かに広報は女性が就くことが多いですからね。あとスポンサー企業訪問などもされていますが、例えば標茶町(しべちゃ)に行かれてましたけれど、あそこは実は札幌から車で片道5時間はかかります。北海道がチーム名にあるとはいえ、広大な全道に営業範囲を広げるより、大都市・札幌に閉じた方が効率的ではあると思うのですが…

工藤:(笑)違うの違うの。結局、みんな同じことを考えて札幌でお金を集めようとしているから、奪い合いなんですよ。だけど、遠い町だとトップチームの選手がわざわざ来ることはほとんどない。「おらが町に来てくれた」となったら、やっぱり注目してくれるじゃないですか。そこです。

───なるほど、遠いからこそ価値があると。

工藤:あと、選手を派遣してでもスポンサードの単価を上げるということは今の少ない人員でやっていくには大事なところ。なので金額はあまり下げたくない、という思いでやってます。

───例えば同じ10万円でも、10人から1万円と1人から10万円では、後者の方がケアもしやすいですね。ちなみにVリーグ参入が決定したことで、スポンサー集めでは追い風になりましたか?

工藤:それが、あまり変わらないんですよ。Vリーグ参入は決まっていたけれど、V3だということが発表されたのが6月じゃないですか。V3だってことはほとんど分かっていたけれど、公表できないからスポンサー集めもできないんですよ。ウチを殺す気か、と思ってました(苦笑)。