車体が軋むように君が泣く~トヨタ車体クインシーズ、和解なき合意~

クインシーズ刈谷
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Arimoto Kazuki(有本和貴)をフォローする

もう一つは、これは会場に着いて気づいたのだが、セッターの山形選手をリベロ登録にしていた。少なくとも私は過去リベロ登録をされていた記憶はないし、ファンの反応を見る限りは初めてのリベロ登録だった。これも上述した安井選手の不在、が影響しているのだろう。村永さんを戻したとはいえいきなり実戦というわけにはいかない。であれば一時的に山形選手をコンバート…そう思っていた。

だが、山形選手はこの土日は熊井選手と交替でディグで入っていた。つまり安井選手の代わりに登録して、熊井選手に万が一のことがあったときの控え、という存在ではなかったのだ。だが、これはいわば「コート内のケアマネジャー」という側面があると見ていて思った。彼女は元々いろんな選手に積極的に声をかけて、いたわることのできる選手だ。特に同じポジションの山上選手には都度アドバイスを送っていた、いわばパートナー関係だった。その点で、他の選手をいたわるだけでなく山上選手をコート内から支えることができる効果があった。

似たような起用は昨シーズン、PFUでも見かけた。和才選手をリベロ登録して、コートに入れていたのだ。なのでこの起用は、チームを立て直すという点で大きな効果があると思った。

そして雰囲気という点では、この試合が初めてだったので比較ができないが、選手たちはどこか吹っ切れたような印象を受けた。たぶん体を冷やさないためなのだろう、チャレンジのときに控え選手たちが輪になって抱き合っている光景は昨シーズンにはなかったし、他チームでも見られない。

何よりキャプテンの藪田選手がチームを明るく盛り上げていた。昨年まではスタメンに名を連ねていた彼女は、この試合では基本的にベンチだった。キャプテンでありながら、選手としてプレーでチームに貢献できない。そんなもどかしさがある中で、でも自分にできることを最大限頑張っていた。二枚替えで登場したときは、得点時にコートを走り回って活気づけた。

選手が吹っ切れている様子を見ていて思った。

もしかしたら、溝ができていたこのチームは、あることで合意したのでは、と。相容れなかった監督と選手が、唯一あることで考えが一致したのでは、と。

それは「もうお互い分かり合うことは無理だ」ということ。今まではお互い少しでもわかり合おう、同じ考えを共有しようとしていたのかもしれない。今までそこに時間を割き、労力を使っていた。

でも、それはもう意味がない。もうお互い、自分の思う通りやりましょう。

これまで握手をすることのなかった両者が、決別することで固い握手を交わした。和解なき合意として。

ウィングアリーナ刈谷のコート上の空気から、そんな印象を受けた。